一つの認識描像

糖尿病治療に新たなアプローチ!光遺伝学を用いた治療とは?

現代的な生活によって、多くの人が生活習慣病にかかるリスクを背負っています。厚生労働省の調査にによると、糖尿病の患者数は316万6千人に登るとされています。ところで、糖尿病には1型と2型の二種類があり、どちらもインスリンというホルモンに関する機能が正常に働かなくなるのが原因です。主要な2型糖尿病は、インスリンに対する体の反応が鈍くなるため、結果として膵臓が必要な量のインスリンを補えなくなり、循環器内のグルコース濃度が危険なレベルまで上昇してしまう病気です。1型糖尿病は、免疫システムによって体内の唯一のインスリン製造細胞であるβ細胞が破壊されてしまい、インスリン自体が完全に不足する病気です。現在行われている主な治療は、β細胞を活性化させる薬物を投与するか、直接インスリンを注射するというものです。どちらの場合も血中のグルコース濃度に大きな振れ幅が生じることになり、長い目で見ると健康に影響する可能性もあります。今回は、マウスにてこの問題を回避することに成功した研究を紹介します。

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インスリンの構造。血中のグルコース濃度を調整している。

人工の膵臓の細胞を移植!光遺伝学を用いたインスリンの制御とは?

この研究はタフツ大学による研究です。グルコース血中濃度の振れ幅を小さくするためには、グルコース濃度上昇とインスリン分泌というリアルタイムの関係を保ちながらインスリン生産を増やす必要があります。研究者らは、光の有無によって活動を変えるタンパク質を利用する手法である「光遺伝学」を活用することによってこれを達成しました。移植する肝臓のβ細胞は、PAC(Photoactivable adenylate cyclaseの略で、光活性化アデニル酸シクラーゼの意)酵素を書き込まれた遺伝子を用いて人工的に生産されました。PACはブルーライトにさらされると環状アデノシン一リン酸を生産し、これがβ細胞でのグルコース刺激によるインスリン生産を強化します。この方法だと、血中のグルコース濃度が高いときにだけインスリンの生産量が高まるため、従来の治療で見られたような過剰なインスリンによる低血糖が起こる可能性が非常に低いです。タフツ大学のEmmanuel Tzanakakis教授は次のように言います。

「使い古された例えですが、実際に光を生物学的なスイッチのオンオフに使っているのです。この方法を用いて、薬を使用すること無く、体内のグルコース濃度を適切なレベルにコントロールすることができます。この細胞はβ細胞の中の環状アデノシン一リン酸の量を増やすだけなので、必要なときにだけインスリンが生産されます。これによって自然なインスリン生産制御を行うことができます。」

ブルーライトは単に細胞を通常モードから生産モードに切り替えるだけです。このような光遺伝学的なアプローチは多くの生物学的システムで研究が進んでいて、新たなジャンルの治療法の開発に一役買っています。また、光によるコントロールは他にもメリットがあると、タフツ大学の院生であるFan Zhang氏は言います。

「明らかに反応は即座に行われるものでインスリンの分泌量が多くなるにも関わらず、細胞内での酸素消費量はあまり変わらないことが我々の研究で分かっています。酸素の枯渇は膵臓の細胞移植によくある問題です。」

この研究によって、従来の糖尿病治療の困難と、膵臓の細胞移植の困難を同時に解決することができました。さらなる研究によって人間にも応用することができれば、より多くの人の苦しみを和らげることが出来るようになるでしょう。

 

 

ちょこっと英単語:

the administration of drugs 薬物の投与 administration には政権という意味もある
hypoglycemia 低血糖 医学系の単語は馴染みの薄いものが多い