一つの認識描像

核酸がたくさん!DNA類似体はどのくらい存在する?

我々の体を構成している主な成分はタンパク質です。そして、このタンパク質はアミノ酸の羅列によって作られています。このアミノ酸の並べ方を記録しているのが遺伝物質、つまりDNAなのです。DNAは核酸と呼ばれる化学物質の仲間であり、RNAも同様です。では、他の化学物質で、核酸を呼べるようなものはあるのでしょうか?あるとしたら、どのくらいの種類あって、DNAの代わりとなるものは存在するのでしょうか?今回は核酸の多様性についての研究を紹介します。

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DNA。4種類のヌクレオチドからなる高分子で、生命体の情報を格納している。(from: Andrey Prokhorov/E+/Getty Images)

発見されたDNA類似体!その驚くべき数とは?

体内のタンパク質はDNAの複製から始まる一連の過程によって精密に作られています。しかし、その過程の中でエラーが起きる可能性もあります。このような小さなエラーが、進化論における自然選択の引き金となるのです。タンパク質の性質が変わるということは、体の構造が変化するということであり、これによって、変動し続ける環境の中で生き残る能力を得ます。これが地球上の生命多様性の基礎となる論理です。DNAは生物の情報を「記憶」しています。しかし、DNAとRNAだけなのでしょうか。それとも、多くの核酸の中から選択された最善策なのでしょうか。

東京工業大学の地球生命科学研究所(ELSI)、ドイツ航空宇宙センター(DLR)、エモリー大学の研究者らは、高度な計算手法を用いて核酸に類似した化合物を調査しました。核酸類似体の調査には、単純な基礎生物学的意味だけでなく、薬学的な意味もあります。例えば、核酸を模倣した合成分子はHIVなどの命に関わる疾患の治療の基礎となっています。ここから分かるように、この研究以前に核酸のような高分子化合物は見つかっています。なぜ、さらなる研究をするのかというと、核酸類似体が遺伝情報を保持できる物質としてDNAの代替物になりうるかどうかに関して多くの謎が残っているからです。さらに、他の未発見の類似体も存在するかもしれません。今回の研究では、それらを一つ一つ実験で見つける代わりに、計算を用いて調査しました。こうすることによって化学試料と時間を大幅に節約できます。結果は驚くべきもので、なんと、100万を超える種類の類似体が発見されました。これは、生物学的にも薬学的にも、まだ研究すべき部分が多いことを意味します。これらの遺伝システムとしての可能性について、エモリー大学のJay Goodwin氏は次のように言います。

ヌクレオチド類似体から代替遺伝システムを考えるのは本当にワクワクします。それらは太陽系内の他の惑星や衛星などといった異なる環境でも合成されるかもしれません。これらの代替化合物は我々の生物学のセントラルドグマの概念を拡げるものになるかもしれません。」

また、論文の共著者のMarkus Meringer博士は、今回の実験の重要性について次のように述べています。

「私達はこの計算結果に驚きました。100万を超える核酸のような分子の存在を予測するのはとても難しかったでしょう。これを知った今、我々はこの中のいくつかを実験で調べることができます。」

この中のどの分子が最初なのか、なぜDNAとRNAが特別なのか、核酸類似体によって新たな薬を開発できるのか・・・。非常に多くの核酸類似体が見つかり、非常に多くの研究すべきテーマが見えてきました。これからの研究に期待です。

 

 

ちょこっと英単語:

hereditary 遺伝性の 実はハゲと遺伝的シグナルが関係しているらしい

mutagens 変異原 遺伝子に変化を起こすもの。放射線もその一種

 

 


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