一つの認識描像

小さいスケールの科学。ナノスケールの粒子の性質を調べる方法とは?

科学技術が進歩していくにつれ、電子機器を構成する物質は非常に小さくなってきています。最近では、原子よりも小さい「量子」を用いた「量子コンピュータ」の開発も進んでいます。小さな世界の物質の挙動を正確に調べることは、これからの技術的発展において非常に重要になってくるでしょう。今回紹介する研究は、そんな小さな世界を調べる方法に関するものです。この研究では、ナノスケールの金属粒子を新しい方法で調べているのですが、一体どのような手法を用いているのでしょうか。また、これまでの技術では何がいけなかったのでしょうか。

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電子顕微鏡で見た原子。これはグラフェンの画像で、つまり炭素原子が見えている。(from:https://hvem.nagoya-microscopy.jp/equipment.html

SNCの新しい解析技術!従来の測定法の感度を増強させる方法とは?

東京工業大学の科学者らは、0.5~2nm程しかない金属粒子の化学成分や構造を評価する方法を開発しました。これは分析技術における大きな発展で、エレクトロニクスや製薬、化学やその他の分野など、小さいスケールの素材を扱う分野での応用が期待されます。
新素材の研究と開発は数多くの技術的躍進を生み、また多くの科学分野で必要不可欠のものとなっています。ナノスケールでの合理的な設計と革新的な素材の分析によって、これまで実現されなかったレベルでの、機器における効率性、処理能力を実現することができます。現在の研究でスポットライトを浴びているのは、無数の応用先があると考えられている金属のナノ粒子です。中心から規則的に分岐した構造を持つ樹上高分子であるデンドリマーをテンプレートとして用いた最新の合成法によって、0.5~2nmの大きさの金属結晶を作ることが可能となります。「サブナノクラスター(SNC)」と呼ばれるこれらの非常に小さな粒子は、とても独特な性質を持っています。例えば、化学反応における優秀な触媒になったり、そのクラスターを構成する原子の量が1つ変わっただけで性質が大きく変わるような量子力学的現象を見せてくれたりします。

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デンドリマーの一例。これは第一世代のポリフェニレンデンドリマーと呼ばれるもの。



残念ながら、ナノスケールの構造の解析に現在使われてる方法はSNCの検出には向いていません。従来の手法の1つとして、ラマン分光法というものがあります。これは、解析したいサンプルにレーザーを照射し、分散したスペクトルを解析することによってそのサンプルの構造などを知ることが出来る手法です。従来のラマン分光法やその亜種は研究において非常に大切なものですが、これらはSNCを解析できるほどの解像度を持っていません。なので、東京工業大学のAkiyoshi Kuzume博士と、Kimihisa Yamamoto教授らはSNCを解析できるように、ラマン分光法をより強力なものにする方法を研究しました。ラマン分光法の中の一種で、表面増強ラマン分光法と呼ばれているものがあります。その中でも、金または銀、もしくはその両方のナノ粒子を不活性のシリカシェルに閉じ込めたものをサンプルに加えて、光学信号を増強する事により感度を高めるという手法がより有効なものとして知られています。研究チームはまず、理論的に光学的なサイズと構成を決定することに注力し、100nmの銀ナノ粒子(通常使われているもののおよそ2倍の大きさ)が多孔質シリカシェルに付与されたSNCの信号を大いに増強することが分かりました。Yamamoto教授は次のように言います。
「この分光技術は、増強粒子の近くにある物質のラマン信号を選択的に発生させます。」
この理論的発見を実際にテストするために、酸化スズのSNCをラマン分光法で測定し、ある特定の化学反応における、不可解なほどに高い触媒反応に対する構造の側面、または化学成分の側面からの説明がつくのかどうかを調べました。その結果、ラマン分光測定と構造シミュレーション、理論的分析を比較することによって、酸化チタンSNCにおける原子の性質に依存した特定の触媒反応の起源を説明する構造に対する新たな知見を得ることができたのです。

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今回の実験の概要を表した図。酸化チタンSNCをシリカシェルに付着させて、レーザーを照射する。(Credit: Science Advances)



この研究で採用された方法は、より精度の高い分析技術とサブナノスケール科学の発展に大きな影響を与えることでしょう。Yamamoto教授は次のように結論づけます。
「物質の物理的、化学的性質を詳細に理解することによって、サブナノ素材の実用化に向けた合理的な設計が容易になります。高感度の分光法は、素材の革新を加速させ、学際領域としてのサブナノ科学を促進するでしょう。」

ナノスケールの金属原子クラスターは面白い性質を示すものも多く、純粋に知的好奇心をくすぐられるものでもあります。この分野のさらなる研究が楽しみですね。

 

 

ちょこっと英単語:

invaluable かけがえのない このかけがえのない地球を守るためにも、新たな技術が必要である。
inert 不活性 何とも反応しないというのは安全なものである。しかし、反応しにくいものを無理やり反応させたい時もあり、それは非常に難しい。