一つの認識描像

クーパー対を分離する新しい技術!量子コンピュータとのつながりとは?

電子のペアを切り離したり、再結合させることができるデバイスを用いて、通常とは異なった形態の超伝導体を研究する事ができることが、理研の研究者によって明らかにされました。どの点が通常と異なるのかというと、この超伝導体には「マヨラナフェルミオン」という奇妙な粒子が含まれているという点です。
従来の超伝導体は、「クーパー対」と呼ばれる電子のペアによって、導体内を抵抗ゼロで電流が流れるといったものです。超伝導体に接続された常電導体に流れる電流は、まれに抵抗なく流れることができると言うことが知られています。超伝導体で生じたクーパー対がそのまま常電導体を貫通するからです。
理化学研究所創発物性科学研究センターのSadashige Matsuo氏と共同研究者らは、「ジョセフソン接合(Josephson junction)」と呼ばれる、クーパー対が2つの一次元構造をもつ常電導帯に突入する時に、効率的にそのクーパー対を分ける事ができるデバイスを開発しました。クーパー対を分離する際に使われていた従来の手法は、超伝導体を「量子ドット」と呼ばれるゼロ次元の構造を使うといったものでした。

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今回開発されたJosephson junction。2つのナノワイヤーは半導体でできている。(Credit: RIKEN)




今回開発されたデバイスには2つのアルミニウム電極がついていて、0.05Kまで冷やされると超伝導体になります。この電極は、2つの半導体のナノワイヤーで橋渡しされています。研究チームは、クーパー対がこの2つのワイヤーを通る際に2つの電子に分離することを可能としました。この手法では、従来の量子ドットのようにクーパー対を散乱させることなく分離できます。
クーパー対が超伝導体からナノワイヤーに入っていく際に、local pair tunnelingと呼ばれる効果によって1つのワイヤーにペアの電子がどちらも入っていくか、異なるワイヤーに1つずつ電子が入って、クーパー対が分離されるといったことがいずれも起こりえます。後者の現象では電子対は互いに離れてはいるものの、量子もつれという効果によってつながっています。
電圧をうまく制御すると、半数以上のクーパー対が2つに分離できることが分かり、これはlocal pair tunnelingを抑制することができていることを示します。分離した電子がもう片方の電極にたどり着くと、電子は再結合してクーパー対になります。研究では、磁場を加えるとクーパー対の分離が起こる確率が高くなることも発見されました。
これらの結果は、このデバイスがトポロジカル超伝導体と呼ばれる状態を作り出すのに使うことができる可能性を示唆しています。この状態では、電子と正孔の重ね合わせでマヨラナフェルミオンが生成されます。この粒子は、自身が反物質であるという特別な性質を持っています。マヨラナフェルミオン量子コンピュータ内で情報を運ぶ「量子ビット」として利用できるとして注目を集めています。

超伝導体も量子コンピュータも、現在非常に盛んに研究が進んでいる分野です。この2つがつながるのはとても興味深いですね。

 

 

ちょこっと英単語:

fermion フェルミオン 多粒子系における粒子の入れ替えにおいて波動関数の符号が変化する粒子。同じ状態に2つ以上入ることができない。

absolute zero 絶対零度 もともとはシャルルの法則から導かれた。ちなみに、絶対零度でも粒子の振動が完全に止まるわけではない。もし止まってしまったら、ハイゼンベルク不確定性原理に反する。