一つの認識描像

チタン原子と水素原子の同時撮影が可能に!金属/金属水素化物界面の様子は如何に

フローニンゲン大学の物理学者らは、チタン/チタン水素化物界面での水素を透過型電子顕微鏡を用いて可視化しました。新しい技術を用いることによって金属原子と水素原子の両方を同じ画像に収めることができ、界面構造の理論的モデルの実証が可能となります。
素材の性質を理解するためには、その構造を原子レベルの解像度を以って観測することが重要になることがあります。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた原子の可視化は実現されていますが、これまでは重い原子と最も軽い原子(水素)を同時に適切に映し出すことはできていませんでした。今回の実験では、まさにこれを可能としたのです。フローニンゲン大学のBart Kooi教授と共同研究者らは新たなTEMを用いて、チタンと水素の両方を収めた、チタン/チタン水素化物の界面画像の撮影に成功しました。

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中央が新しい技術を用いて撮影された画像。左は高角度検出器の画像で、右は明視野検出器のもの(Credit: deGraaf et al, University of Groningen)



得られた画像には、水素原子の列がチタン原子間の空間を埋め、結晶構造を歪ませる様子が映し出されていました。水素原子はその空間の半分を占めている事がわかりました。Kooi氏は言います。
「1980年代に、金属/金属水素化物間界面の水素原子の配置に関する3つの異なる理論が提唱されていました。今や、我々は度のモデルが正しいのかを自分自身の目で確かめることができるのです。」
金属/金属水素化物界面を作るために、研究チームはチタン結晶からスタートしました。チタンに水素原子が注入され、チタンに浸透して非常に小さな金属水素化物の結晶を形成しました。
次はこの2種類の原子を同時に収めた画像を作る必要がありますが、これはとても困難なことです。まず、サンプルには水素が注入されますが、その後界面に沿った方向から見る必要があります。これは、きれいに整列したチタン結晶をイオンビームで切断した、50nmという非常に薄い試料を使うことによって達成されました。
チタンと水素を同時に可視化できたのは、TAMに施されたいくつかのイノヴェーションのおかげです。重たい元素は、電子顕微鏡の電子によって引き起こされた散乱によって可視化されます。散乱された電子は高角度検出器(high-angle detector)によってよく検出されます。
「水素はこの散乱を用いるには軽すぎるので、今までは低角度検出器(low-angle detector)に頼る必要がありました。」
とKooi氏は説明します。しかし、ここで用いる電子波などの波が素材と干渉してしまい、水素原子を特定できないという問題がありました。
散乱に用いられる波は、低角度の明視野検出器によって検出されます。新しいTEMには、4つの部分に分割された円形の明視野検出器が搭載されています。反対側の部分の検出器のデータとの違いを分析しビームが素材を通るときに起こる変化を観測することによって干渉の効果を取り除き、水素原子を視覚化できるのです。
「最初に必要だったのは、原子間の距離よりも短い電子ビームを用いたスキャンが可能な顕微鏡でした。そして、分割された明視野検出器と分析ソフトを同時に用いることによって、可視化が可能となったのです。」
とKooi氏は説明します。この研究は金属原子と水素原子の相互作用を示すものであり、水素貯蔵合金の研究に非常に有益な情報をもたらします。

 

 

ちょこっと英単語:

subsequently その後 文の接続に使われそうだが、実際には文中に出てくる単語
wavefronts 波面 波を見ると、心が安らぐ

 

 

 

 


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