一つの認識描像

0作用素のスペクトル測度

$H$をヒルベルト空間とし、0で0作用素を表します。\[\forall f \in H, 0f=0\]すると、任意の$f,g\in H$に対して、\[(f,0g)=0=(0f,g)\]であるので、自己共役作用素であることがわかります。そして、このスペクトル測度は\[\{\chi_{0}(B)|B\in\mathbf{B}^{1}\}\]で与えられます。ただし、$B$はボレル集合、$\mathbf{B}^{1}$は$\mathbb{R}$上のボレル集合族、$\chi_{0}(B)$は、もし$0\in B$ならば$I$(恒等作用素)、そうでないなら0であるような作用素値集合関数です。まずは、これがそもそもスペクトル測度の定義を満たすかを調べ、そして実際に0作用素のスペクトル測度になっていることを確認します。

スペクトル測度とは、以下の2条件を満たす射影作用素の族$\{E(B)|B\in\mathbf{B}^{1}\}$です(簡単のために一次元で考えます):
(E.1) $E(\varnothing)=0,\ E(\mathbb{R})=I$ (恒等作用素)
(E.2) $B=\bigcup_{n=1}^{\infty}B_{n},\ B_{k}\cap B_{l}=\varnothing\ (k\neq l)$ ならば、\[E(B)=\text{s-}\lim_{N \to \infty}\sum_{n=1}^{N}E(B_{n})\]ここで、$\text{s-}\lim_{N \to \infty}$は強収束です。
$\chi_{0}(B)$が(E.1)を満たしているのはすぐに分かるので、(E.2)を考えます。強収束を調べたいので、任意の$f\in H$を取ってきて、\[\left\|\chi_{0}(B)f-\sum_{n=1}^{N}\chi_{0}(B_{n})f\right\|\]が$N\to\infty$で0へ収束するのかが分かればよいです。まず、$0\notin B$のときは、すべての$n$に対して$0\notin B_{n}$なので、上のノルムは常に0であるのでOKです。次に、$0\in B$であるときには、$N$を十分に大きく取れば、$n_{0}\in \{0,1,\cdots ,N\}$で$0\in B{n_{0}}$なるものが存在するようにできます。集合の和に0が入っているということは、いずれかの$B_{n}$には0が入っていなければならないからです。すると、それ以上の$N$では、ノルムの中の第二項の和において、$\chi_{0}(B_{0})f$のみが0でない項として効きます。他の項は、集合が直和分解されていることから0を含まず、$\chi_{0}(B)$の定義から0となります。このとき、$\chi_{0}(B_{0})f=\chi_{0}(B)=f$となるので、上のノルムは以降の$N$で0となります。これによって、目下の作用素族がスペクトル測度であることがわかりました。

これが実際に、0作用素に対応するスペクトル測度となっていることを示します。そのため、任意の$f,g\in H$に対して\[\int_{\mathbb{R}}\lambda d(f,\chi_{0}(\lambda)g)\]を計算して、これが常に0となることを示せばよいです。そのために、一度Lebesgue積分の定義に戻って考えます。まず、上の積分で$\lambda\geq 0$の部分のみを考えます。すると、被積分関数は非負可測関数であるので、それに各点単調増加で近づく単関数列\[g_{n}(\lambda)=\sum_{k=1}^{p_{n}}\alpha_{n,k}\chi_{B_{n,k}}(\lambda)\]が存在します。ここで、和の上の$p_{n}$は$n$で定まる自然数、$\alpha_{n,k}$は実数、$\chi_{B}(\lambda)$は$B$の定義関数、$B_{n,k}$は$\mathbb{R}$を直和分解したボレル集合で、$k$について和集合をとると$\mathbb{R}$全体になります。積分の定義より、\[\int g_{n}(\lambda)d(f,\chi_{0}(\lambda)g)=\sum_{k=1}^{p_{n}}\alpha_{n,k}(f,\chi_{0}(B_{n,k})g)\]となります。ここで、必ずいずれかの$B_{n,k}$は0を含んでいてそのような集合は一つなので、各$n$に対して$0\in B_{n,1}$となるように番号を付け替えます。すると、\[\int g_{n}(\lambda)d(f,\chi_{0}(\lambda)g)=\alpha_{n,1}(f,\chi_{0}(B_{n,1})g)\]と表すことが出来ます。ここで、$g_{n}(\lambda)$は各点で$\lambda$に収束するので、$g_{n}(0)\to 0$です。そして、$g_{n}(\lambda)$の定義から、$g_{n}(0)=\alpha_{n,1}$であることがわかります。これはつまり、$n\to\infty$で$\alpha_{n,1}\to 0$を意味します。そこで、上の積分の絶対値を評価すると、\[\left|\int g_{n}(\lambda)d(f,\chi_{0}(\lambda)g)\right|=\left|\alpha_{n,1}(f,\chi_{0}(B_{n,1})g)\right|\leq |\alpha_{n,1}|\|f\|\|g\|\to 0\ (n\to\infty)\]ここで、シュワルツの不等式と、射影作用素の性質を用いました。ということで、積分の極限は0となることがわかり、これは非負可測関数の積分の定義であるので、\[\int_{\lambda\geq 0}\lambda d(f,\chi_{0}(\lambda)g)=0=(f,0g)\]であることがわかります。$\lambda\leq 0$の時も符号を変えて同様に議論すれば0になることが分かるので、主張を示すことができます。あとは、自己共役作用素に対するスペクトル測度の一意性からわかります。