一つの認識描像

これまで見つけてこなかった「小さい」ブラックホールの存在

ブラックホールは非常に特異な天体であり、宇宙全体の理解に欠かせない存在です。これらはあまりに重要なので、天の川銀河にある全てのブラックホールを調べ尽くしてしまおうという試みもあるくらいです。しかし、今回の研究で、天文学者たちが見逃してきた種類のブラックホールがあることが分かりました。それは、今までに見つかったどんなブラックホールよりもサイズが小さいものです。一体どのようにして見つけたのでしょうか?そして、どんな情報を我々に与えてくれるのでしょうか?

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有名なブラックホールの一つ、射手座A*。天の川銀河の中心に位置する超大質量ブラックホールである。

1.「小さい」ブラックホールの重要性はどこにあるのか

今回の研究に携わった、オハイオ州立大学のTodd Thompson氏は次のように発言しています。

超新星爆発がどのようにして起こるのか、超質量ブラックホール がどのようにして誕生するのか、非常に質量の高い星の中で、どの ようにして元素が形作られるのかを我々は理解しようとしてきました。なので、もし我々がブラックホールの新しい集団を明らかにすることができれば、どの星が爆発するのか、ブラックホールになるのか、中性子星になるのかに関するより多くの情報を得ることがで きるようになります。新しい研究分野の幕開けとなるでしょう。」

これまでに見つかったブラックホールよりも小さいサイズから得られる情報の重要性について、Thompson氏は次のような例を挙げています。

「身長180cm以上の住民だけを対象とした国政調査をしたとしましょう。そして、この調査者はそれ以下の身長の人間の存在を知らないとします。この調査からの情報は不完全で、正しい住民の全体像を与えるものではありません。これと同じことがブラックホール研究にも起きていたのです。」

つまり、研究の対象となるブラックホールの数と種類が増えたことで、得られるデータも増え、ブラックホールに関するより詳細で正確な情報を得られるようになるというわけです。しかし、これだけではありません。この発見は、ブラックホールのサイズ、すなわち質量に関する常識を塗り替えたという点で非常に意味のあるものなのです。

2.小さなブラックホールの観測方法。中性子星との境界は?

ブラックホールは質量の大きい恒星が一生を終えるときに誕生します。もし、恒星の質量が十分に大きくなければ、ブラックホールではなく中性子星になります。理論上では太陽質量の2.5倍を超えるとブラックホールになるとされていますが、それに近い質量のブラックホールは見つかってきませんでした。つまり、中性子星ブラックホールを隔てるギリギリの質量の壁は一体どこにあるのかという疑問は未解決のままです。この謎を解き明かすべく、Thompson氏と共同研究者らは、天の川銀河中の約10万もの恒星のスペクトルのデータをAPOGEE(the Apache Point Observatory Galactic Evolution Experiment)から引き出し、それらを組み合わせる事によって情報を得るという試みをはじめました。ここでターゲットにしたのは、連星を組んでいるブラックホールです。もともと2つの恒星が連星を成していて、片方の星が死んでしまった場合を想像してください。このとき、片方の星が死んでブラックホールになってしまっても、もう片方の星が変わらずに連星に見られる軌道を取るので、それを観測することによって比較的簡単に見つけることができます。研究チームは大量のスペクトルのデータを見ることによって、スペクトルの波長がより短くなっているときに連星を組んでいる可能性があることを発見しました。そこから更に解析を進め、ついに、これまで見つかっていたブラックホールより質量が小さく、中性子星より質量の大きい天体が計算によって発見されました。その後のさらなる計算と追加のデータによって、その天体が、太陽質量のたった3.3倍しかない低質量ブラックホールであることが判明しました。Thompson氏は次のように言います。

「我々の研究によって、ブラックホールの新たな研究方法と、天文学者がこれまで見つけてこなかったクラスのブラックホールを発見することができました。質量は我々に天体の形成や進化、またその本質を教えてくれるものです。」

天の川銀河だけでなく宇宙全体のブラックホールを解析することによって、はっきりと質量の境界線を見出すことが出来ることに期待したいです。

 

 

ちょこっと英単語:

supernova 超新星 古代文明に肉眼で観測されたことを示す証拠が残っている

binary star 連星 一方の恒星のガスが、もう一方の天体に吸い込まれる