一つの認識描像

最新の観測機器に期待!恒星の最期のプロセスを捉える

太陽の寿命は100億年と言われています。つまり、50億年後には太陽はその内部の水素ガスを使い果たしてしまい、膨らんで赤色超巨星となります。この赤色超巨星ですが、実はまだ観測されていない現象が起こることが予測されています。それは「核ヘリウムフラッシュ(helium core flash)」と呼ばれる、ヘリウムの核融合の暴走です。理論やモデル研究によって50年間研究されてきましたが、実測には至っていません。しかし、現代のTESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite:NASAの宇宙望遠鏡)などの望遠鏡が現状を打破すると言われています。今回は、太陽、ないし低質量の恒星が一生を終えるときのプロセスを紹介します。

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太陽。我々が生きていくのに必要なエネルギーを与えてくれる非常にありがたい存在。

1.太陽の原動力と、その変遷とは?太陽の将来について

太陽のような恒星は水素をヘリウムに核融合させて出るエネルギーを原動力としており、その反応温度は約1500万ケルビンにもなります。しかしヘリウムは水素に比べて炭素への核融合を始める温度が圧倒的に高く、10億ケルビンほど必要です。なので、水素が反応をしている間は、ヘリウムは恒星の中に蓄積され続けます。太陽が膨張するのはこのためで、最終的に地球の軌道ほどの大きさにまで膨張すると言われています(人類が生き残るためには地球を出なければなりませんね)。太陽が水素を使い切ってしまうと、ついに非常に激しいヘリウムの核融合が始まります。これが核ヘリウムフラッシュです。コアはその後200万年にわたって何度がヘリウムフラッシュを繰り返し、より静かで安定した状態へと移行していきます。

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核融合。水素爆発もこの原理を応用している。

2.核ヘリウムフラッシュを観測する手がかり!「星震学」で明らかになったこととは?

しかし、その観測は難しいものです。

「核ヘリウムフラッシュの効果はモデル研究にて明確に予測されていますが、まだそれを反映した観測結果を直接得ることはできていません。」

オーフス大学教授のJorgen Cristensen Dalsgaard氏は言います。核ヘリウムフラッシュは低質量の恒星の生命サイクルを理解する上で重要な役割を担います。しかし、残念なことに遠い恒星のコアからデータを集めることは非常に難しいので、科学者らはこの現象を観測することができていません。では、どのようにして研究を進めればよいのでしょうか。ここで、「星震学」の出番となります。星震学とは、その名の通り、星の振動のデータをもとにして、その内部構造を研究する学問のことです。実は、核ヘリウムフラッシュは星の中を伝播する波長の異なる連続した波を発生させます。これが恒星をベルのように振動させ、恒星を観測したときの微妙な明るさの違いとして現れます。また、2012年のLars Bildstenらによる論文で示されたように、恒星の振動の頻度はコアの状態に非常に敏感です。よって、最新の観測機器で振動を精密に測定すれば、核ヘリウムフラッシュを直接観測できるかもしれません。

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NASAの宇宙望遠鏡であるTESS。(from: engadget)

3.発見された奇妙な天体。「準矮星Bスター」に焦点を当てる

しかし、多くの恒星は周りの水素の層が厚く、振動が弱まってしまうという難点があります。ここで天文学者は、特異でまだよく分かっていない天体である準矮星Bスターに焦点を当てました。その前の形態の赤色超巨星は、どういう理由かわかりませんが外側の水素の層の大半を失ってしまいました。カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究者による最新の研究は、この準矮星に起こるヘリウムフラッシュの影響が我々から観測可能かどうかを判定するものです。何ヶ月にも及ぶ分析とシミュレーションの結果、なんと、核ヘリウムフラッシュによる多くの現象が比較的簡単に観測できることがわかったのです。残っている水素の層による減衰もそれほど大きくないので、現代の観測機器の精度を以って、モデル研究で予測されたヘリウム核融合の引き金が引かれる際の複雑な過程を初めて実測できるかもしれません。実は、この現象をすでに観測している可能性もあります。これまでの天体研究の中で、核ヘリウムフラッシュの予測値によく似た、説明されていない振動がいくつかの星で観測されています。解析機器が発展すれば、これらのデータをもとにして重要な情報を得ることが出来るかもしれません。

科学技術の発展によって様々な知識を得ることが出来るようになるというのは、夢が膨らむ話ですね。

 

 

ちょこっと英単語:

propagate 伝わる プロパゲーター(伝播関数)というのが量子力学に出てくる
subdwarf 準矮星 準小人ではない