一つの認識描像

タンパク質を機械に組み込む!DNA解析の新たな技術とは?

私達の体は非常に多様なタンパク質でできています。それぞれの分子が生命活動における重要な役割を担っていますが、その中でも特に必要不可欠なものは酵素でしょう。酵素は、生体内の触媒のことで、タンパク質でできています。この分子の存在は非常に大きく、なんと、酵素ありで一秒間に何千回も起こる反応が、酵素がなければ一回終えるのに千年かかると言われています。そして、その反応の中にはDNAの複製も含まれています。今回は、DNA複製のときに活躍する「DNAポリメラーゼ」についての研究です。なんと、これを機械にはめ込んで電気信号を検出しようという研究がなされています。どんな手法で行い、そこから何が分かるのでしょうか?

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タンパク質の分子。この分子は水素結合や弱い結合によって、自発的に折りたたまれる。(from: https://www.akira3132.info/protein_enzyme_amino.html

1.タンパク質の電導性?機械に信号を送るための手法とは

Stuart Lindsay氏率いるチームの新しい研究では、ある適切な条件下で、酵素が非常によい電気伝導性を示し、電気デバイスの中に組み込むことが出来ることを発見しました。普通はタンパク質が電気を通すとは考えにくいです。しかし、DNAポリメラーゼをビオチンとストレプトアビジンというタンパク質を介して電極に貼り付けると、酵素が反応している際に電気信号が検出できるということが分かりました。なぜ電気伝導性を示すのかはまだ謎に包まれているそうです。DNAポリメラーゼはDNAの複製を行う酵素で、DNAの塩基配列を読み取って対となるヌクレオチドをつなげていきます。ここで検出された電気刺激は、ヌクレオチドを捕らえて離す際の信号だったのです。

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DNA。4種類のヌクレオチドからなる高分子で、生命体の情報を格納している。(from: Andrey Prokhorov/E+/Getty Images)

2.電気信号から分かることと、その活用方法

なぜ電気刺激を検出するのか、なぜDNAポリメラーゼなのかといえば答えは1つです。これをヒトゲノム全体の解析に利用するために決まっています。これまでの科学技術では、ヒトゲノムを解読するのに13年という時間と、約10億ドルという費用がかかりました。しかし、生体内でDNAの複製をする際は、これとは比にならないスピードで反応が進んでいきます。さらに読み取りミスも非常に少ないため、DNAポリメラーゼはまさに自然界の高速高解像度DNA読み取り機なのです。これを利用しない手はありません。Lindsay氏は実用化に非常に前向きな姿勢を示しています。

「もし、チップの中に1万個の分子を入れることができたら、一時間以内にゲノム全体の解析が終わるでしょうね。それほど難しいことじゃありません。」

実用化に至るためにはまだまだ乗り越えなければならない壁があります。適切なタンパク質の接続ができるかどうかはかなり微妙な問題で、調整が必要です。また、ヌクレオチドと結合する部分が、酵素が電極と繋がる部分を妨害しないようにしなければなりません。その他にも、ヌクレオチドの検出反応による信号と、その他の信号を見分ける必要があったり、接続部分のランダムな振動も課題です。Lindsay氏はDNAポリメラーゼが厳密に隔離され、密閉されれば、これらのノイズ問題を解決できると信じています。

この技術の実用化される日が待ち遠しいですが、電気伝導性に関する理論的解明も気になるところですね。

 

 

ちょこっと英単語:

incorporate 組み込む 原義は「中に形を与える」

amid の中で アミド結合などのアミドはamide