一つの認識描像

田舎の大学

わたしは自然が好きだ.
特に・・・何が好きだろうか.

例えば,道端のタンポポが好きだ.
いい年して地面に膝をついて花をよくよくのぞいてみると,
小さなふざけたラッパみたいな花がたくさん集まっている.
そうしたら自分の背丈の小ささを感じられる.なぜか?
わたしの影が覆う地面はとても狭い.
この小さな世界こそ,ああ,たまらなく好きなのである.

例えば,大きな風が好きだ.
わたしは暴風雨なんかがやってくると必ず大学に出て,
力強い風の塊を体いっぱいに感じながら珈琲を飲む.
どうにかして,この珍しい風を留めておきたいと願うものだ.
いや,風は留めてしまえば風ではなくなるのか?

例えば,小さな竹林が好きだ.
大学の敷地の端の方に土の坂があって,
そこは竹や笹が生えっぱなしになっている.
この中に入ってそこらへんの木の枝なんかで座る場所を作り,
竹の影を持参の水に混ぜて飲んだりしたものだ.
なんと,演奏会つきである!

例えば,朝の雲が好きだ.
大学で自習なんかしていると,目に映るのは数式に数式.
そんなときに雲を見てみようとするなら要注意!
その圧倒的な複雑性に頭がくらくらすることでしょう.
それでもその多様さと美しさに心打たれて,
もうその日は自習室に戻れなくなってしまうかも?

学ぶときは言葉で学ぶ.理路整然と,抜け目なく.
しかし自然の感動は,どうも言葉は後追いでしか無い.
その心に渦巻く彩りが,そのまま声を超えた価値である.
どちらも楽しめればお得かも知れない.