一つの認識描像

ウルトラマンが破壊する夢の理論

以下,「夢」は寝ているときに見る夢とする.

私は夢に興味がある.これは普通のことだと思う.夢は不思議だ.そして標準的な描像として自然科学に依る説明を摂ると,これは脳が創り出している世界であると考えることができる.なので,夢を調べたいならば脳の機能についての考察が必要となる.
しかし,そうでなくとも夢の内容の移り変わりを記録して,そこに規則性を見出したり何らかの説明を与えてみるというのは可能だろう.実際に何がどうなって夢が発生しているのかはわからないものの,現象予測に関する一種の尤もらしい理論を与えることができればそれは一つの進歩である.もちろん,厳密な哲学(特に懐疑)の立場にたてば言うべきことはたくさんあるが,とにかく何らかの説明を与えてみようと思った.

そうして今まで信じてきたのは,SRによる説明である.SRとはSimultaneous Recognition の略で,直訳すると同時認識,意味は「ある認識に対して連想され得る認識の曖昧な全体」である.つまり,夢の中で何かが出てきたとき,そこから連想される概念がある種予備的に存在するようになり,そのうちのいくつかが夢や現実の状況などの何らかの認識局在作用によって実際に顕現する.少なくとも,どうにかして連想でこじつけることができる,ということだ.結局こじつけではあるのだが,これで一応第一段階の説明にはなっているので,後はもっと洗練されたものにするとか,夢の内容をどうにかして改変できないか模索するうちに新しい次元の開拓が行われるのではないかと期待していた.SR説明の例を見てみよう.
先日,自分の院生部屋の奥の棚の上に,色々な生物が展示されている夢を見た.その中には水槽もあり,そこに展示されていたのはぶつ切りにされた下半身だけで泳ぐ魚,それも結構な数.こういう奇妙なことは夢のなかでは結構あり,例えばバスで一緒に乗っていた人の頭蓋骨が穴開きで脳が見えてたとかあるが,あんまり重要なことではないと判断されるのか感情的な反応が起きにくいという傾向がある.今回のもちょっと不気味だなーと思うくらいだった.覚醒時に見れば大きな声でツッコんでいただろう.
それでは「自分が院生部屋にいる」というシーンからSR流動で今回の内容を追っていこう.まず,現実の院生部屋に棚は無い.おそらく,自分が使っている机が木製のものであるので,木製+上になにか置ける+学問・学校に関連するというところから,中高時代の理科講義室の後ろの棚が連想されたはずだ.これが夢の状況に適合されるとき,院生室という認識は夢の自分が場所を移動していないためそのまま残り,結果空間の構造が現実とずれるということになったのだろう.現実の理科講義室の後ろには鉱物が展示されていたということと,その頃学校祭が近く,去年の学校祭で生物部の展示が印象に残っていたことから,理学+展示で生物へシフトする局在が発生し,生物の展示が行われる状況が説明できる.さて,うちの大学の3階のお気に入りスポットに,生物学科のどこかの研究室が使っている部屋がある.入り口の白い扉の中央部分のみ細長いガラス張りになっていて,ちょっとだけ中を除くことができる.その部屋は薄暗く,よく見てみるとギリギリ見える範囲に水槽があるのがわかり,そこには魚が泳いでいる.恐らく研究用の飼育だろうと思うが,大学理系棟の無機質な光景の中にミニ水族館があるような雰囲気がして,とても好きなのだ.こういう現実の経験から連想が入り,生物+展示で水槽に入った魚へ,というのは私にとっては結構自然な流れである.そして魚は泳いでいるのだが,そうはいっても大抵魚は食事のときに見るので「半身」という認識が入り込んでしまい,しかし展示なので半身のまま泳ぐ魚という奇妙な実現になってしまったように思う.こういった具合に夢の体験を説明していく.ちなみに頭蓋骨穴開きは,そのまま古代の霊的な描像に基づく治療法が頭蓋骨に穴を開けて悪霊を追い出すというものなので,これはそんなに説明することはない.

というか,このレベルで連想のこじつけを行っていいのなら,大抵の現象は説明できそうな気がする.それはその通りで,であるが故に一番初等的な説明方法としての地位を確保していたのだ.しかし,これももう過去のものである.
先日の夢にて.ある女性が存在していて,ふとした瞬間にウルトラマンだったのだ.??????????????????????????????
別にその人から目を離したわけでもなく,ただなんというか,気づいたらウルトラマンだった.意味がわからない.そもそも,私はウルトラマンという存在にこの人生で興味を持ったことはない.小さい頃にハマっていたとかでもなく(そもそも特撮などに興味がなかった),ここ数年で認識すらされたことはなく,連想される道理が一切存在しない.ってかウルトラマンってすげえ名前だな.スーパーマンの上位互換かよ.

というわけで,私のSR説明はこの3分間クッキングで完成した料理を食べることができない存在によっていとも容易く打ち砕かれてしまった.今のところ打つ手なしだ.私は敵キャラなのかもしれない.