一つの認識描像

カニが迷路を解く!海洋生物にも確認された「空間学習」とは?

皆さんは迷路を解くのは得意ですか?単に紙に書いて解くものだけでなく、巨体な迷路の中に入って脱出するタイプのものもありますね。今回は、カニが迷路を解く事に関する研究を紹介します。「え、カニ?」と思った方もいるかも知れませんが、実は、カニが生物学を大きく進歩させるかもしれないのです!

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カニのための迷路。ゴールにはムール貝が置かれている。(Credit: Swansea University)

1.カニは道を覚える!12匹のカニを用いた実験とは?

この研究は、スウォンジー大学のEd Pope博士率いる研究チームによるものです。研究者らは上図のような迷路をカニが解けるようになるのかを調べるため、12匹のカニを4週間にわたって観察しました。迷路のゴールに進むためには、5回の方向分岐をクリアする必要があり、そのうち3つは行き止まりになっています。ゴールには、報酬としてムール貝が置かれ、回数を重ねるごとにゴールに辿り着くまでの時間がどのように変化するのかを調べました。すると、4週間の間に、着実にゴールに辿り着くまでの時間が短くなっていることが確認できたのです!この実験には続きがあります。2週間のブランクを置いて、今度は報酬無しでカニを迷路の中に入れたところ、すべてのカニが8分以内にゴールにたどり着くことができました!全く学習していないカニで実験すると明らかに時間がかかっており、中には一時間経ってもゴールにたどり着かないカニもいました。このことから、カニは時間が経っても迷路の道を覚えているという事実がはっきり示されたことがわかります。

2.海洋生物における「空間学習」!カニで実験した意味は?

しかし、なぜカニなのでしょうか。この実験のリーダーであるPope博士は次のように言っています。

「科学者が『空間学習(Space Learning)』と呼んでいる、周囲の道を覚える能力は動物にとって重要な能力です。この能力は、多くの動物に関して理解が深まってきましたが、カニのような海洋生物に関してはそうではありません。なぜなら、海洋生物を追跡するというのは非常に困難だからです!空間学習はかなり複雑なので、甲殻類においてそれがどのように働くのかを解明することは、動物界でこの能力がいかに普遍的なものであるのかに関するより良い理解を与えてくれます。」

つまり、これまで陸上の生物で確認されてきた重要な能力、「空間学習」が、海洋生物にもあることを示すための実験だったのです。博士は、この研究結果は「さほど驚くに値しない」としていますが、この能力をカニが持っていることをはっきりと示すことができたのは素晴らしいことだ、ともコメントしています。また、共同著者で、気候変動の専門家のMary Gagen教授によると、海洋環境の変化が海洋生物にもたらす影響を知る基礎を作ることが重要であるとし、この実験の重要性を強調しています。更に進んだ研究として、異なる環境下で空間学習の能力がどのように影響を受けるのかを実験すれば、環境が生物に与える影響をより具体的に調べることができるかもしれません。馴染みのある生物が研究の出発点となるのは、なんだかワクワクしますね。

 

 

ちょこっと英単語:

crustaceans 甲殻類 海の幸のイメージがあるが、ダンゴムシもこれに分類される。

mussel ムール貝 今回のカニのエサ。一体何匹消費されたのだろうか。