一つの認識描像

中性子星の衝突で重い元素ができる!元素の特定にも成功

水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム・・・。我々人類は、現在118個の元素を発見しています。九州大学の森田教授がニホニウムを発見したのは記憶に新しいですね。今回はそんな元素についてのお話です。私達は核融合によってより重たい元素が作られていくことを知っています。しかし、自然界の中では核融合は鉄までしか進まず、それ以上に重たい元素が作られていく過程を観測することができていませんでした。そんな中、コペンハーゲン大学の研究チームは、中性子星の衝突の後にストロンチウムが合成されたことを示すデータを入手しました!

f:id:watarikui:20191024190417j:plain

中性子星の衝突と、生まれたてのストロンチウムのイメージ図。(Credit: ESO/L. Calcada/M. Kornmesser)

1.理論的には示されていた、元素が作り出される「r過程」とは?

高エネルギーの天体現象(超新星爆発など)によって鉄よりも重たい元素が作られるということは、実は1950年代には理論的に知られていました。重たい元素の生成には、「r過程」という現象が起こることが必要です。「r過程」とは、高速な中性子捕獲(repid neutron capture)のことで、原子核が素早く連続的に中性子を吸収する現象を指します。中性子原子核に吸収され、β崩壊を起こして電子を放出すると、原子番号が大きい元素が誕生します(β崩壊の話は、高校物理で学びましたね)。では、この現象はどのような条件で起こるのでしょうか。実証実験によると、鉄よりも重たい元素が作られるには、恒星の中心よりも高温で、おびただしい数の中性子が飛び交う場所でなければならないことがわかりました。つまり、普通の恒星の核融合では起きない反応で、長年直接観測されることはありませんでした。

2.重力波で検出された中性子星の衝突!再分析で重要なデータを入手

しかし、現在は重力波を使うことができます。これを使って、中性子星の衝突が検出されました。これは2017年のことで、このときに重たい元素が作られた痕跡が検出されたのですが、それが何なのかを特定することまでは出来ていませんでした。しかし、このデータを再分析したところ、それがストロンチウムであることが分かったのです!コペンハーゲン大学のDarach Watson氏は次のように発言しています。

中性子星合体の2017年のデータを再分析すると、ストロンチウムを示すデータを特定することができました。これは、中性子星合体によってこの宇宙にある元素が作られることを証明しています。」

2017年の分析でわからなかった理由は、重たい元素のスペクトルに対する理解が不完全だったことだとしています。

何十年にもわたって行われた元素誕生のメカニズムの解明。この研究で、その最後の1ピースを埋めることができました。科学の進歩を感じさせてくれるような実験でしたね。

 

 

ちょこっと英単語:

aftermath 余波 災害の後の状態を表すときにも使われる

collision 衝突 LHCのCはcolliderのC。素粒子物理学によく出てくる