一つの認識描像

なぜプリンが好きなんですか?

A「好きな食べ物はなんですか?」
B「プリンです!」
A「どうしてですか?」
B「甘くて美味しいから!」

という会話があったとしましょう.このとき,プリンが好きな理由を聞かれたBさんの認識上で起きていることについてよく考えてみると,以下のような説明をつけることができます.
1. プリン以外の,自分が好きな食べ物を多数思い浮かべる.
2. それらの共通項を探すことで,自分が何を好む傾向にあるのか把握する.
3. 上で見出された特性が自分に備わっているとして,それを自分がプリンを好む理由であると認識する.

ある対象を好むときの理由を聞かれた際にその対象の特性を答えるというのは,会話の中で自然に行われることだと思います.しかし,その上で「なぜその特性が好きなのか」を問われると,なかなか回答は難しくなります.例えばプリンが好きな場合は,実際には味覚的情報,触覚的情報(舌触り・柔らかさ)等,摂食時の総合的な認識に対してポジティブな感情を抱いているからです.なぜそのような感情を抱くのかというと,自然科学的に言えばそのような脳の作りになっているからですが,なぜそうなっているかと言われても「生存上有利だから」のような説明になり,もはや私の与り知るところではありません.実は感情など認識の発生というのは,ものすごくよ~く考えてみると非常に難しい問題で,突き詰めてみると原理的に分からないとさえ結論され得ます(みなさんも考えてみよう!).なので,なにかを好んでいる理由というのは案外よく分からず,「なんかよくわかんないけど,それが与える総合的な認識に対して快く感じる」というのが辛うじてできる回答なのではないかと思います.ここまでの話を踏まえて最初の会話を見てみると,自然言語の曖昧さというか多様さというか,言葉の辞書的な意味だけで会話が成り立っている訳では無いということを垣間見ることができると思います.