一つの認識描像

ブラックホールを研究する面白い手法。「音ブラックホール」とは?

 ブラックホールといえば、現在は重力波が観測され、さらなる研究がなされている非常に興味深い分野です。学者の間だけでなく、一般の人で知っている人も多いはず。しかし、光さえ吸い込んでしまうブラックホールを直接研究するのは難しいです。ここで、実験家たちはどうやってブラックホールを研究しているのかに関する一例を紹介しようと思います。

1.ブラックホールとは何か、に関する説明

ブラックホールアインシュタイン一般相対性理論から導き出される非常に異質な天体です。ここでは、少し専門的、数学的にその仕組みを見ていきましょう。

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アインシュタインの方程式は次のようになります。

          

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見た目はスッキリしているように見えますが、実はとんでもない量の計量とその偏微分でできています。詳しいことは話しませんが、両辺がそれぞれ何を意味しているのかを把握して、ざっくりと意味を掴みましょう。

まず注意しなければならないのが、GやTのうえの文字は累乗を表しているのではなく、添字である。ということです。これらは「二階の反変テンソル」と呼ばれるもので、行列で表現されています。

左辺のGは、「空間の曲がり具合」を表します。例えば、方眼用紙に線を描くところを想像してください。縦線と横線の交点を結ぶように一直線に線を引くと、普通の方眼紙なら斜めの真っ直ぐな線が引けます。しかし、もし方眼紙のプリントミスで、縦線が微妙に曲がっていたらどうなるでしょうか。先程と同様に交点を結んでいくと、微妙に曲がった線が引けます。この「方眼の曲がり具合」なるものだと考えればわかりやすいです。光には質量がないのに、天体の近くを通るときに曲がる理由はこのイメージで説明できます。光はまっすぐ進もうとしているのに、方眼のほうが曲がっているから、結果として進路が曲がってしまうのです。 

では、この曲がりを生み出すものは何なのでしょうか。答えは左辺に書いてあります。Tは「エネルギー運動量テンソルと呼ばれるもので、その名の通りエネルギーと運動量に関する情報が行列の形で記述されています。ここで、エネルギーと質量が等価だと考えると、空間の曲がりは天体の質量と運動状態に左右されることがこの式から言えます。つまり、重力場の方程式は天体の状態と、その周囲の空間の曲がり具合を結びつける方程式なのです。

2.ブラックホールとよく似た現象

皆さんは、一度入ると光でさえ出られなくなる領域、「事象の地平面」を知っているかと思います。これがあるおかげで、内部の状態はもちろん、その周辺で起こっているミクロな現象を実際に実験で確かめるというのは非常に難しいのです。しかし、これで諦める研究者ではありません。「ある地点を越えると、どんなものも戻ってこれなくなる」ということから発想して、「ある地点を越えると、どんなも戻ってこれなくなる」ような状況を考えることにしたのです。なぜ音かというと、音速は流体の種類や状態によって決まってしまっているからです。次のような装置を考えてください。

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流体の速度がだんだん早くなっていくような 装置を考えます。この流体の速度は、壁があるところで音速に達します。この流体の中に音源を入れると、流れに従って音源は速度の速い方へと動いていきます。音源が壁を通り抜けてしまうと、壁の手前側(速度が小さい側)には音は届かなくなります。実はこのような、音に関するブラックホールともいえる現象をそのままブラックホールと呼びます。

3.音ブラックホールで何がわかるのか

しかし、こんな装置で本当にブラックホールの事がわかるのでしょうか。実は、ブラックホールを直接観察するよりも分かることもあるのです。研究は各国の有名な大学で行われており、私は京都大学の論文を読んでこれを知りました。その「分かることと」とは、例えば「ホーキング放射」についてです。実はホーキング放射の検証は非常に困難で、その原因は、ホーキング放射が極低温で起こる量子的な現象だからです。実際にブラックホール周辺の量子効果を観測するのは難しいので、「極低温」で「量子的」に振る舞う流体を使って実験をすれば、より成果が期待できそうですね。そして、この世界には超流動ヘリウム」があります。この流体はボース・アインシュタイン凝縮によって、多粒子全体が基底状態に落ちるという性質があり、量子的な現象の観測が期待できます。実際に実験研究が可能になれば、理論で見つかっていない新しい現象が発見される可能性もあります。

 

いかがだったでしょうか。ブラックホールの音現象との類似性と、その応用として音ブラックホールについての紹介をしました。私自身はこの発想はとても好きで、計測機器の発展を待たずとも実験ができる手順を考えるというところに感銘を受けました。いまやブラックホールは熱力学や量子力学とも結びついており、さらなる理論的な発展も楽しみですね。

 

 

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