一つの認識描像

超伝導体の研究に進展!コバルト原子が超伝導を壊す理由とは?

超伝導体は抵抗なく電流を流すことの出来るもので、非常に低温で実現されています。超伝導体に関する研究は非常に盛んに行われていて、極限の環境下で超伝導体を探したり、より高温の条件下で実現される超伝導体の開発などが行われています。今回は超伝導体と、その中の不純物の関係を紹介します。不純物としてコバルト原子が加えられると奇妙なことが起こるそうなのですが、果たしてどのような現象なのでしょうか。

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超伝導体。マイスナー効果により浮遊し、ピン止め効果により静止している。

詳細な研究によって明らかになった非磁性不純物に対する超伝導体の性質とは

プリンストン大学率いる国際的な研究チームは、鉄を含む超伝導体の高温下における驚くべき量子的効果を直接観測しました。超伝導体は電気を抵抗なく流し続けることができ、遠距離の電気輸送やその他の省エネ機器に応用することができます。従来の超伝導体は極低温でのみ実現されていましたが、10年ほど前に見つかった鉄を基盤としたある素材は比較的高温で超伝導を示し、科学者らの注目を集めました。しかし、鉄系の超伝導体がどのようにして超電伝導現象を起こすのかはまだはっきりとは分かっていません。特に鉄の強磁性超伝導体にはそぐわないものだと考えられることもあります。鉄系超伝導体のような新型の超伝導体の仕組みを解き明かすことは、さらなる省エネ技術への応用に繋がるものです。科学者らは、鉄系の超伝導体にコバルトを不純物として加えたときの状態を調べました。プリンストン大学のM.Zahid Hasan氏は、不純物を加えることは超伝導体研究において有用な方法であるといいます。
「水の中に石を投げ入れて、水の挙動を見るようなものです。超伝導体が不純物に対してどのような反応を示すのかを調べれば、それらの性質を量子レベルまで解き明かすことができます。」

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水面の波紋。何かを加えたときの性質を見て、そこから逆算して本質を見出す事ができる。



アンダーソンの定理として長く知られているアイデアによると、超伝導体に不純物を加えても、超伝導は壊れないと考えられます。しかし、このルールに従わないものもあります。そのうちの1つがコバルトです。コバルトはこの理論に反して、鉄系の超伝導体に加えるとその性質を壊してしまうことが確認されています。今まで、なぜこのようなことが起きてしまうのかはさっぱり分かりませんでした。この現象を解明するために研究チームは、走査型トンネル顕微鏡を用いて、鉄とリチウムとヒ素で作られた超伝導体を調べました。研究者らは、不純物として磁気に反応しない状態のコバルト原子を導入して、超伝導体がどのような振る舞いを示すのかを調べました。この実験では非常に多くのサンプルが使われ、0.4ケルビンにまで冷却されました。このような状況下で結晶格子内の一つ一つのコバルトの位置を特定し、超伝導にどのような効果が現れたのかを原子レベルの小さな視点と、超伝導体全体としての視点で観測しました。

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走査型トンネル顕微鏡。原子一つ一つを直接観測することが出来る。

結果として、コバルトの影響は限られた範囲にのみ起こるもので、原子1~2個分離れるとその影響はなくなることが分かりました。しかし、コバルトの濃度の増加と超伝導体の常伝導体への移行には強い関係があり、コバルトを更に加えると超伝導が完全に壊されることが分かりました。超伝導というのは、2つの同じ量子状態を持った電子が原因で起こる現象です。このペアによって抵抗無く金属の中を進むことが出来るのです。このペアを揺さぶって壊す最小のエネルギーのことを「超伝導エネルギーギャップ」といいます。コバルト原子が加えられたとき、この揺さぶりは、強い限界と弱い限界、という2つの方法によって記述されます。弱い限界は電子間の相互作用にとって重要な波動関数を邪魔する最小のポテンシャルです。これは電子同士のペアに関わってきます。鉄系の超伝導体の鉄原子をコバルト原子に置き換えると、それらは弱い限界を壊す働きを示しました。一つ一つの作用は小さくても、多くの原子の力が合わさると超伝導は壊れてしまいます。研究者はリチウムとヒ素で作られた素材の弱い限界での揺さぶりがアンダーソンの定理を破り、超伝導から常伝導への量子状態の移行を引き起こすことを発見しました。超伝導体の素材はトンネルスペクトルと呼ばれる電子の振る舞いを表すものによって記述され、電子エネルギーの分布情報を与えてくれます。リチウムとヒ素の素材は「S波」ギャップと呼ばれる物を持っていて、それは平坦な「U型」の超伝導体のエネルギーギャップによって特徴づけられています。驚くことに、コバルトは超伝導を抑制するだけでなく、エネルギーギャップがU型からV型になるにつれてその性質を変えてしまうことが分かりました。

超伝導ギャップは通常「秩序変数」と呼ばれる値を反映します。実験で確認された形は、高温超伝導体のある特定の秩序変数が取られる場合にのみ見られるもので、従来発見されてこなかったふるまいのヒントとなります。この変化は異常なもので、研究者らは更に深く研究を進めていきました。理論的な計算と磁気的な計測を組み合わせることによって、コバルトの揺さぶりの非磁気的本質を確認することができました。アンダーソンの定理は非磁性不純物に対する理論であるため、新たな理論が必要であることが分かります。鉄系超伝導体は異なる「フェルミポケット」で秩序変数に符号変化があるのではないか科学者は推測します。フェルミポケットとは、電子が結晶構造を占有する時に見られる規則をもとにしたエネルギー数です。
研究共著者のIlya Beloposki氏は次のように言います。
「従来の超伝導体と、符号変化した秩序変数を持つ超伝導体を区別するためには、超伝導の段階に非常に敏感な観測機器が必要となり、これは非常に難しいです。私達の研究の美しい側面というのは、アンダーソンの定理の破れを考えることで、この要求を回避している点です。」
実際に、研究チームはこのような符号変化を取り入れることによって、コバルト原子が見せた性質を再現できています。このような先行的な計算の後、この符号変化した超伝導を調べるための最先端の計算方法を3つも採用しました。
研究者のJia-Xin Yin氏は次のように言います。
「3つの異なる方法で同じ説明を得たということは、これが堅い結論であることを表します。」
超伝導の謎を探る上で、必ずしも一致しない複数の複雑なモデルが作られることもあります。この場合についてYin氏は次のように言います。
「モデルに依存しない結果は、これがもともとアンダーソンの研究では考慮されなかった、符号変化する超伝導体であることを明確に表しています。」

超伝導体に関する基礎研究を進めることによって、様々な性質が見えてきます。これらをもとにして1つの完成された理論を作ることができれば、超伝導の実用化を実現することが出来るかもしれませんね。

 

 

ちょこっと英単語:

scanning tunneling scorpy 走査型トンネル顕微鏡 ミクロな現象を実際に観測するのは非常に大切な実験である

order parameter 秩序変数 ある状態が表す秩序をマクロな変数で示す

 

 


シュリーファー超伝導の理論 [ J.ロバート・シュリーファー ]