私達は皆宇宙に住んでいます。この宇宙がどのようにして始まったのか。人類はこの疑問に答えるべく、様々な説明方法を作り出しました。そして今は、宇宙はビッグバンにより始まったとする「ビッグバン理論」が支持されています。また、宇宙初期の現象として、宇宙が急速に膨張したとする「インフレーション理論」も科学者の間で認められています。しかし、それぞれのプロセスは実際には根本的に異なっており、中間の状態は謎のままでした。今回は、その2つを繋いでくれる研究を紹介します。
1.宇宙初期の異常な状態!初期条件はどう決めたのか
今回の研究は、マサチューセッツ工科大学、ケニヨン大学などの研究チームによるものです。インフレーションが起こった後、ビッグバンに移行するまでの間に何が起こっていたのかを解明するべく、コンピュータによるシミュレーションを行いました。インフレーション理論では、最初の宇宙は超高温、超高密度の火の玉のようなものだとされています。その大きさは、なんと、光子の1000億も小さいと言われています。このような異常な状況をシミュレーションするのは、一筋縄ではいきません。シミュレーションするには初期条件が必要です。しかも、その条件は現在の宇宙と一致していなければなりません。現在、宇宙の初期の情報として得られるものは、宇宙マイクロ波背景放射です。宇宙の初期の物質の分布と、インフレーション期の物質の振る舞いに関する予測から、宇宙マイクロ波背景放射の測定と一致する条件を定めてシミュレーションを行いました。
2.一般相対性理論が通用しない!?補正された重力による現象とは
実験中、チームは重力効果に微調整を加えました。今の宇宙の重力効果はアインシュタインの一般相対性理論による予測に従うものですが、インフレーション期の物質レベルの高エネルギーとなると少し話が変わってきて、量子力学で重力を修正する必要があります。一般相対性理論によると、重力の強さは定数として記述されます。しかし、超高エネルギー下では、時間や空間座標によって強さが変化することが量子力学から言えます。これを考慮に入れることで、より正確な結果を得ることができたのです。
シミュレーションにて、インフレーション終盤には物質を高温にする「再加熱(reheating)」と呼ばれる現象が起き、ビッグバンが起こる条件が整えられたことがわかりました。実は、超高密度の火の玉の中ではあまりにも大きいエネルギーのために、「万有斥力」とでも言うべき反発する重力が存在し、インフレーションの引き金となったとされています。このエネルギーがインフレーション終盤に宇宙に再分配され、ビッグバンの開始に必要な状況を作り出しました。これが「再加熱」です。研究に携わったKaiser氏は次のように言います。
「これによって、インフレーションとビッグバン、さらにその先まで切れ目のない説明が可能となりました。物理学の理論でそれぞれのプロセスの後を追うことができるので、今日私達が見ている宇宙になるまでの、もっともらしいプロセスと言えます。」
私達は(今の所)過去に戻れないので、初期の宇宙は観測できません。しかし、理論なら試すことはできます。実際に見ることのできない部分を、物理や数学で見ることが出来るというのは素晴らしいことだと思いませんか?
ちょこっと英単語:
plausilbe もっともらしい この単語を覚えるもっともらしい理由が思いつかない
thermal equilibrium 熱平衡 長いけど、必須単語。最近はブラックホール熱力学も熱い