一つの認識描像

発展途上国の衛生環境を改善!過酸化水素をどこでも生み出す方法とは?

傷口に塗ると、シュワシュワして殺菌してくれるオキシドール。これが3%過酸化水素水であることは皆さんご存知かと思います。反応が終わった後は、酸素と水に分解するだけで、人体に有害な物質は放出しません。今や、過酸化水素水はどの病院でも見られるほど一般的な殺菌剤です。しかし、発展途上国ではそうではありません。実は、過酸化水素の生産には大きな化学工場が必要なのです。そんな中、マサチューセッツ工科大学が、どこでも過酸化水素を作ることができる装置を開発したと発表しました!

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過酸化水素の構造式。点線は、弱い結合を表す。

1.過酸化水素は運べない?生成に関する欠点とは

MITの学生のAlexander Murray, Sahag Voskian, Marcel SchreierとMIT教授のT. Alan HattonとYogesh Surendranathによる研究で、持ち運びできる過酸化水素生成装置が開発されました。しかし、先進国で作った過酸化水素発展途上国に送ればよいだけでは?と思った方もいると思います。この研究が必要な理由は、実は、過酸化水素は運びづらいからなのです。私達が使っているオキシドール過酸化水素濃度は3%ですが、この希釈状態で輸送しようとすると、かなりコストが掛かってしまいます。これでは環境にも負荷をかけてしまいます。そこで、コストを抑えるために、濃縮して運ぶ方法を考えます。しかし、これも良くないアイデアです。実は、高濃度の過酸化水素はロケットの燃料に使われるほど反応性が高く、35%を超える過酸化水素は取り扱いに細心の注意が必要になります。こんなものは船では運べません。では、発展途上国の中で工場をつくるのはどうでしょうか。これまた、現実的ではないのです。現在、ほとんどの過酸化水素は大きな化学工場で生産されています。メタンや天然ガスによって水素が生産され、その後に触媒のもとで高温で反応させて作られます。この方法は大量のエネルギーを消費し、持続的なメタンの供給のために大型の施設を必要とするので、辺鄙な地域では設置も運用も困難です。そのため、先進国では大量にあって、途上国では少ないという状況があるのです。

2.困難は分割せよ!反応過程の改善で、どこでも生産を実現

持ち運びできる装置の需要はおわかりいただけたかと思います。では、詳しい原理について見ていきましょう。この装置の実現の研究は以前から行われていたのですが、従来の方法には大きな欠点がありました。どこでも生産を可能とするには、どこにでもあるものを使う必要があります。なので、水と、空気と、電気(小型の太陽電池で補う)で過酸化水素を作る方法が模索されました。まず、酸素と水素を触媒を用いて直接結びつける方法が考えられました。しかし、どうしても普通の水が大量にできてしまい、実用するには濃度が低すぎる結果となりました。次に、電解質を用いた方法が考えられましたが、その電解質とできた過酸化水素を分離するのが非常に困難で、結局濃度が足りなかったのです。そこで研究チームは、過酸化水素生成の過程を2つに分割することにしました。つまり、電解質の中で過酸化水素を作るのではなく、電解質でできた水素を、酸素の豊富な場所に持っていって反応させることによって、簡単に過酸化水素を分離することに成功したのです。

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今回の装置。まず、緑の部分には電解質が入っていて、水から水素を作る。それをまるで「運び屋」のような分子と結合させて(赤い部分)、酸素の豊富な青い部分で反応させる。青い部分では、左の管から空気を取り込み、右の管から過酸化水素を取り出している。(Credit: Massachusetts Institute of Technology)

まず、水が酸素と水素に電気分解されます。この水素が次に「運び屋」分子と反応します。この分子はアントラキノンと呼ばれ、電解槽から分離された反応容器で外から取り込まれた酸素と出会います。そこで、2つの水素原子が酸素分子と反応し、過酸化水素ができるのです。このとき、「運び屋」はもとの分子にもどり、また水素を運ぶ、といったようにサイクルを回すことができます。Surendranath氏は次のように言います。
「これはすごい反応過程です。なぜなら、水と空気と電気というありふれたものでこの重要な物質を作ることができ、実際に環境を清潔にし、殺菌し、水の需要を満たすために使えるのですから。」

発展途上国過酸化水素が使えるということは、衛生的な環境の確保や、安全な飲み水の供給ができるようになります。科学の進歩で命を救うことが出来るのですね。

 

 

ちょこっと英単語:

disinfectant 消毒剤 医療関係の単語を覚えてると、外国で怪我したときに役立つかも

sterilize 殺菌する kill bacteriaよりもかっこいい

 

 

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