持続可能な社会を目指して、再生可能エネルギーが注目されて久しいですが、それらの発電システムには生産性が低いという難点があります。例えば太陽光発電では、太陽光線の中に含まれる波長の一部しか変換できず、多くは熱に変換されてしまいます。発生した熱はエネルギー変換効率を低下させてしまうので、どうしても生産性が低くなってしまうのです。今回は、この余分なエネルギーを持った光子でさえ電気エネルギーに変換することが出来るかもしれないという研究を紹介します。果たして、どのようにして困難を回避したのでしょうか?
熱電子のエネルギーを変換!素材の組み合わせで実現
半導体は光子を電流に変換します。しかし、光子が、変換できないほどの高エネルギーを運んでくることもあります。これらの光子は「熱電子」を生み出し、余分なエネルギーは熱に変換されます。物質科学者はこの余分なエネルギーをも電気に変換する方法を模索してきました。今回、フローニンゲン大学と南洋工科大学は、ペロブスカイトと熱電子を受け取る素材を組み合わせることによってこれが実現されうることを発表しました。
太陽電池では、半導体は光子エネルギーを吸収します。しかし、丁度いいエネルギー帯の光子だけで、エネルギーが低すぎると通り抜けてしまい、高すぎると熱に変換されてしまいます。この丁度いいエネルギーというのは、バンドギャップと呼ばれる物質に固有なエネルギーレベルの差によって決定されます。
「高エネルギーの光子によって生成された熱電子の超過エネルギーはとても急速に物体に熱として取り込まれます。」
とフローニンゲン大学のMaxim Pshenichnikov教授は言います。
熱電子のエネルギーを完全に捕らえるために、半導体とは別に、バンドギャップの大きな素材が使われるべきです。しかし、熱電子がエネルギーを失う前にこの素材に熱電子を移さなくてはならず、非常に難しい作業になります。現在では、バルク材料の代わりにナノ粒子を使うなどして、エネルギーのロスをゆっくりにするという手法が取られることが一般的です。
「これらのナノ粒子には、電子が余分なエネルギーを熱として放出する働きが比較的少ないのです。」
とPshenichnikov教授は説明します。
南洋工科大学の共同研究者らとともに、彼は有機ペロブスカイトと無機ペロブスカイトのハイブリッドとバソフェナントロリンの化合物でできた、大きなバンドギャップを持つシステムを研究しました。研究者らは、ペロブスカイト内の電子を励起させるためにレーザー光を使用し、生成された熱電子が物体内でどのような挙動を取るのかを調べました。
「我々はポンププッシュプローブと呼ばれる方法を用いて電子を二段階で励起し、それらをフェムト秒単位で調べました。」
とPshenichnikov教授は説明します。これによって、バソフェナントロリン内の電子を励起させること無く、そのバンドギャップのエネルギーを超える電子を生成することが可能となりました。なので、この素材中の熱電子はすべてペロブスカイト由来のものになります。
実験結果を見ると、ペロブスカイト半導体の熱電子は容易くバソフェナントロリンに吸収されたことが分かりました。Pshenichnikov教授は次のようにコメントしています。
「これは熱電子の速度を落とすこと無く、しかもバルクの中で起こりました。つまり、なんの(ナノ粒子を用意するなどの)仕掛けもいらずに、熱電子のエネルギーを取り出すことが出来るのです。」
しかし、科学者らは必要とされるエネルギーの量がバンドギャップよりも少しだけ高いことに気付きました。
「これは想定外のことでした。明らかに、2つの素材の間の障壁を超えるために余分なエネルギーが必要です。」
このような予測されないことが起こったものの、この研究によってバルクペロブスカイト半導体の熱電子をエネルギーに変換するための基礎が作られました。Pshenichnikov教授は次のように言います。
「この研究は可視光に比べて、現実的なエネルギー量で行われました。次の課題は、この組み合わせられた材料を用いて、現実的なデバイスを作ることにあります。」
太陽光の大半の光子を電気に変換する、非常に効率の良い太陽光電池が未来の地球を救うかもしれません。
ちょこっと英単語:
・semiconductor 半導体 現代社会の縁の下の力持ち。どこにでもある。
・readily たやすく 物が落ちるのを眺めるのは容易いが、空中に留めるのは難しい