一つの認識描像

ダークマター研究に理論的発展!従来の理論では予測されなかった「重いダークマター」

ダークマター暗黒物質とも呼ばれ、宇宙物理学の大きな謎の一つとなっています。「ダーク」とはいうものの実際には透明で、つまり、光で見ることができません。我々の観測機器は電磁波を用いているため、これで見えないとなるとかなり研究が難しくなります。実際、天文学者は数十年にわたってダークマターを探してきましたが、今の所うまくいっていません。しかし、エルサレムヘブライ大学の二人の研究者による最近の研究で、10の14乗GeVまでの質量を持つ初期の熱いダークマターの構造を明らかにする新しい理論的機構が導入されました。一体どのような機構で、これによってダークマター研究はどのように変わるのでしょうか?

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銀河。もしダークマターがなかったら、こんな形を取らないとされている。

ダークマターが生み出される過程とは?WIMPの相互作用の研究

研究者の一人であるHyungiin Kin氏は、これまでの研究について次のように言います。

ダークマターの本質というのは、現代物理学における長期にわたり解決されていない謎の1つです。現在盛んに研究されているダークマターの候補は、ヒッグスボソンと同程度に重く、電弱力ほどの強さの相互作用を持つ粒子です。この粒子は、電弱スケールとプランクスケールの関係という、他の重要な問題を考えている時に自然と出てきます。」

WIMP(weakly interracting massive particle)として知られるダークマターの有力候補は、熱平衡状態にあった初期宇宙において、標準理論で記述される粒子の相互作用によって自然に生み出される可能性があります。この特定のプロセスは”thermal freeze-out
mechanism”と呼ばれています現在の宇宙物理学理論に基づくと、今日の宇宙の多くのWIPMは、初期条件やパラメータを変えてもそんなに変わらないことが分かっています。しかし1990年のKim Griest氏とMarc Kamionkowski氏の有名な論文では、ダークマターが100Tev以上の質量では、thermal freeze-out mechanismは機能しないとされています。
「我々の最近の論文で、この有名な伝承が間違っていることを証明し、thermal freeze-outはダークマターの質量がヒッグスボソンの質量の10の何乗も大きくても可能であることを示しました。」
と、もうひとりの研究者であるEric Kuflik氏は言います。
「多くのダークマターの残骸物質は、標準理論粒子とダークマター粒子間の確率的な相互作用によって決定されます。」
Kim氏とKuflik氏によって提唱された機構は、粒子の種類によって変わる最近傍相互作用を通して普通の物質と相互作用するダークマターを記述します。言い換えれば、ダークマターは連続的に種類を変えており、まるで種類間をランダムに行ったり来たりしているということを示唆してます。故に、この枠組によると、多くのダークマターは初期宇宙において熱的に決定され、このことが非常に重たいダークマターの存在を可能としているのです。
ダークマターは熱平衡状態の初期宇宙の中で作られることを示しました。そのダークマターの中には、従来の理論で許されていた以上の質量を持つダークマターさえも含まれています。」
とKim氏は説明します。
「興味深いことに、我々の理論で説明されるダークマターは、標準理論粒子との相互作用にのみ依存しています。」
この枠組みは宇宙マイクロ波背景放射の研究における重要な示唆を含んでいます。加えて、これは重いダークマターの調査における基準となります。なぜなら、ダークマターが崩壊して後期の宇宙で普通の物質になる時に、調査で目印に出来る宇宙物理学的、天文学的な興味深い信号を残す可能性があるからですKim氏は次のように語ります。
「これからの研究で追究したいことが2つあります。まず、我々の機構は、宇宙の歴史の中でダークマターが普通の物質に崩壊することを必然的に予測します。これが超高エネルギー宇宙線のような興味深い宇宙物理学的信号を残す可能性があります。天文学に対するこのような示唆もまた面白いです。」
これまでのところ、Kim氏とKuflik氏は大きな質量を持つダークマターの基本的な考えを記述し、パラメータを調整することで単純なトイモデルを完成させています。次の研究では、素粒子理論を詳細に扱って、高質量の熱いダークマターを実現する予定です。
素粒子物理学における、目に見える実現というのは、この機構で予測される実験的シグナルの全てを解明するのに一役買うでしょう。この機構は、ダークマターを除外するにせよ検知するにせよ、それを実現する最善の方法を教えてくれると思います。」
とKuflik氏は加えます。

これまで長く信じられていたことが新しい理論で覆されるのは、科学の発展であると言えるでしょう。実測しにくいものを理論で研究し、観測しうる物を見つけるという考えは、抽象化し高度化する現代物理学において非常に重要で有効な手段であると思います。

 

ちょこっと英単語:

stochastic 確率的 さいころの1の目が出る確率を知っていても、1の目を出しやすくなるわけではない
conventional 従来の いま最新の理論でも、何年後かには「従来の理論」と呼ばれるかもしれない

 

 


5つの謎からわかる宇宙 ダークマターから超対称性理論まで (平凡社新書) [ 荒舩良孝 ]