一つの認識描像

サンタさんの仕事があまりにも大変そうなので、どうすれば手伝えるのかを議論する

それは、クリスマスイブのことです。子どもたちが寝静まった夜に、煙突からサンタさんが入ってきて、クリスマスプレゼントを枕元に置きます。翌朝、子どもたちはプレゼントを見て、「サンタさんがやってきた!」と大喜びします。そして家族と一生に、静かで幸せな一日を過ごすのです。しかし、サンタクロースというのはどのような人たちで、どうすればみんなの家にプレゼントを届けることが出来るのか気になり始めた子どもたちは、紙と鉛筆をとり、考察を始めるのでした・・・。

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サンタクロースの一般的特徴

まず、サンタさんの性質を考察する前には、サンタクロースがどのような特徴を持っているのかを洗い出さなくてはなりません。子どもたちはみんなで意見を言い合い、以下のように、サンタクロースの特徴を箇条書きにしました。

・欲しいプレゼントを書いた手紙を受け取る

・世界中を飛び回る

・家の中に侵入する

・子どもたちにプレゼントを届ける

書き出してみると、サンタクロースたちはクリスマスにかけてものすごく忙しいことが分かりました。子どもたちは、もらったプレゼントを見つめ直し、深く感謝するのでした。

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サンタクロースの能力

世界中を飛び回って、プレゼントを届けるのはとても大変なことです。子どもたちは、なにか手伝うことはできないかと考えました。しかし、普通の人間にはサンタさんの仕事は到底できません。ここで、最先端の科学技術でサンタさんの仕事を再現しようと考えました。話し合っていると、どうも、サンタさんの模倣をするには現代の技術では足りない部分があることが分かりました。そこで、サンタさんの能力を洗い出し、それを再現するにはどのような科学技術を発展させなければならないかをみんなで考えることにしました。子どもたちは積極的に意見を出して、サンタさんの能力を箇条書きにしました。

・浮遊能力(ソリ、またはトナカイ、もしくはその両方に付与されている)

・物体のサイズを変更する、または広い空間を作り出す能力(プレゼントを運ぶ時に必要)

・物体をすり抜ける、または転送する(手紙を受け取る、プレゼントを届けるときに必要)

・防寒対策

サンタクロースの物理的性質

まずは、浮遊能力を考えることにしました。Aくんは次のように言いました。

A「飛行しているということは、重力に逆らっているということだよね。つまり、揚力を生み出す装置が必要だから、プロペラを使えば比較的自由に空を飛ぶことが出来るんじゃないかな?」

Bくんが続けます。

B「僕たちが手伝うときはそれでいいだろうね。最近は小型のプロペラ機の開発も進んできているだろうし、きっと僕たちが大人になる頃には便利に使えるんじゃないかな。でも、サンタさんの性質はわからないね。なんたってソリに乗ってるんだよ?しかも、トナカイが引っ張ってる。一体どういうことなんだ?」

Aくんは、少し考えてから言いました。

A「それは難しいね。でも、トナカイの赤い鼻は光っているみたいだよ。クリスマスの時によく聞く歌の中で、暗い夜道でもトナカイの鼻が光って役に立ってるらしいからね。つまり、トナカイは、実は機械なんだよ!あれは、何らかの反重力を生み出す装置で、昔の人たちがトナカイだと勘違いしただけだよ!」

Bくんは、なるほど、と納得しました。これで一歩、サンタさんの負担軽減に近づきました。

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次に、あれだけ大量のプレゼントを運搬する方法を考えることにしました。先程の話し合いでは、プレゼントを一度小さくして運んだり、袋の中に大きな空間が広がっていて、そこに荷物を入れているのではないかと考えました。しかし、これを再現する技術は思いつきません。子どもたちは、一生懸命に考えました。すると、Cくんが突拍子もないことを言い出しました。

C「サンタさんは実はプレゼントを運んでいないのかもしれないよ。」

みんな、これがどういうことかわかりませんでした。プレゼントを運んでないのに、プレゼントが枕元に置かれるはずがありません。しばらくたったあと、Aくんが答えました。

A「つまり、プレゼントを転送することによって、各家庭に届けているということかい?そして、サンタさんは各自、転送装置を持っていて、家が近づいてくるとプレゼントを袋の中に転送するんだね。」

これを聞いていたBくんは、よく分かりませんでした。

B「じゃあ、どうして直接枕元に転送しないんだい?それに、あんなに大きい袋を持っていく必要もないじゃないか。」

Cくんはやさしく答えました。

C「あの袋こそが転送装置なんだよ。だから、外側から見るとプレゼントが袋の中から出てきているように見えるんだ。」

Bくんは目からウロコが落ちたように感じました。しかし、これを再現しようと思うと、どのような技術が必要かというのが難しくて分かりません。そもそも、可能かどうかさえ怪しいです。子どもたちは、小さい頭を働かせて、色々考えました。長いこと考えたあとに、Cくんが言いました。

C「どう考えてもワームホールしか思いつかない。量子テレポーテーションは、もつれた光子の状態が云々で、物質の移動に使えるとは思えない。つまり、袋の入り口は、ワームホールの入り口になっているんだよ。サンタさんたちは、エキゾチックマターを見つけているんだ!」

Aくんは、別の意見を出しました。

A「Cくんの意見が一番しっくり来るね。ワームホールは現実的ではないけど、それ以外の転送方法が思いつかない。でも、物質を転送しない方法として、3Dプリンターを活用するというのはどうかな?袋の中には多くの種類の素材が入っていて、サンタさんの本部みたいなところから情報をもらってプリントするんだ。技術を進歩させて、プリントに掛かる時間を短縮したり、多くの種類の素材を一度に扱えるようにすると、可能になるかもしれないよ。」

Bくんは顔をしかめて言いました。

B「でも、その素材はどうするんだい?あの袋の中にあれだけのプレゼントを作り出すだけの素材があるとは思えないよ。」

Aくんは、少し悲しい顔になって言いました。

A「そのとおりだと思うよ。空気中の原子を用いて補充する方法なんかも考えたけど、みんなが欲しがるものと言ったら、ゲームなんかの機械類だからね。金属原子はうようよ浮いたりしていないもんね。」

そこで、Cくんが言いました。

C「確かに、少数のサンタさんで全家庭に届けようとすると、物質的にも、エネルギー的にも限界があるから、僕たちには無理だろうね。だから、僕たちがやるときは大勢でやろうよ。届ける事のできるプレゼントの量は少なくなるかもしれないけれど、それでも、少しだけサンタさんの負担を減らすことが出来るよ!」

子どもたちはCくんの言葉に納得し、将来はたくさんの人達でサンタさんを救おうと考えました。

と、話を聞いていたDくんはとてもいいアイデアを思いつきました。

D「ねえみんな!僕たちが大人になったら、自分の子供の分のプレゼントを、自分で用意すればいいんじゃないかな?そうすれば、さっきまでの高度な技術も必要なくなるし、まだ議論してない、物体の透過だとかも考える必要はなくなる。どうかな?」

子どもたちは、「それだ!!」と口を揃えて言いました。Aくんが続けます。

A「素晴らしいアイデアだね!もし、これをすべての人間が行ったとすると、一人ひとりの負担もそれほど大きくないし、なによりサンタさんがゆっくり休めるじゃないか!クリスマスはどんな人達も楽しく暮らすべきだから、サンタさんだけが忙しいのはもちろん良くない。将来子供ができたら、僕たちがサンタさんになればいいんだ!」

 

 

 

あれから30年が経ち、かつての子どもたちも成長し、結婚して、子供を持つようになりました。そしてクリスマスイブになると、サンタさんのために、そして我が子のために、自分がサンタクロースになるのです。そして、翌朝。大喜びする子どもたちに向かってこういうのです。

メリークリスマス!!