一つの認識描像

脂肪と脳と免疫システム!?脂肪量と流動的知性の関係とは?

人間は歳を取るにつれて様々な機能が低下していきます。その中でも、認知機能の低下は非常に重要なものであると考えられます。認知機能を維持するために脳トレーニングをしたり、新しい体験をすることはとても大切であると考えられていますが、今回紹介する研究によると、筋肉量が多く、脂肪が少ない人のほうが認知機能の低下が見られにくいことが分かりました。さらに、そこには免疫システムも関係しているそうです。一体、どのような仕組みになっているのでしょうか?

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人間の脳。まだまだ解明されるべき謎が残っている。

4000人の中年男女を対象とした調査で判明した、筋肉量と認知機能の関係とは?

アイオワ州の研究者らは、筋肉が少なく、多くの脂肪を持っていることが、年齢を重ねるにつれてどのように思考の柔軟性が落ちていくのかに影響している可能性があることを初めて発見し、その一因として免疫システムの変化があると結論づけました。これらの発見は、肥満や座りがちな生活、また老化とともに自然に起こる筋力の低下を抱えている高齢者の思考の柔軟性を保つための新しい治療法に繋がる可能性があります。
Auriel Willette氏らによる研究では、イギリスのバイオバンクの参加者で、中年から高齢の男女4000人以上のデータを調べました。研究者らは除脂肪筋肉量、腹部脂肪、皮下脂肪のデータを直接測り、それらが流動的知性(物事を考え、理解し、判断する能力)とどのような関係にあるのかを分析しました。
Willette氏とKlinedinst氏は、40代から50代の腹部脂肪が多い被験者の大半が、年齢を重ねるにつれて流動的知性を失っていったことが分かりました。対照的に、筋肉量の多い被験者は流動的知性が保持させる傾向にあることが分かりました。これらの結果は、年代や教育レベル、社会・経済的地位を考慮に入れても違いが見られるということが分かりました。Willette氏は次のように言います。
「年代は流動的知性の時間減衰に影響している要因ではないようです。関係しているのは生物学的な年齢で、つまり筋肉量と脂肪量なのです。」
一般的には、中年に差し掛かると脂肪が増え、筋肉量が落ちていきます。そして、この傾向はそこから年齢を重ねるにつれて大きくなってきます。これを克服するには、筋肉量を保つための毎日の運動を実施することがより重要になっていきます。Klinedinst氏は、特に中年の女性には筋力トレーニングが不可欠であると言います。男性よりも女性の方が筋肉量が少ない傾向にあるからです。
この研究ではまた、免疫システムの活動変化が、脂肪・筋肉量と流動的知性の関係を説明できるかどうかも調べました。先行研究によると、BMI値が高い人は血液中の免疫システムがより強く働き、これが脳内の免疫システムを活性化させて、認知機能の問題を引き起こしてしまうことが知られています。BMI値は単に体の総体重を考慮するので、脂肪と筋肉の比率や、それらが免疫に影響するかどうかは研究する必要があります。
この研究では、女性においては、腹部脂肪と流動的知性の悪化の関係はリンパ球と好酸球という2種類の血液細胞の変化によって説明されるということが分かりました。男性においては、好塩基球という全く異なるタイプの白血球が脂肪と流動的知性の関係をおよそ50%ほど説明することが分かりました。筋肉量が保持されている間は、免疫システムの影響は見られなかったようです。
この研究で体脂肪と流動的知性の相関が分かったものの、これがアルツハイマー認知症のリスクを増加させるのかは分かっていません。Klinedinst氏は今後の研究について次のように言います。
「さらなる研究では、筋肉量が少なく、脂肪が多い人がアルツハイマー病にかかるリスクが高いのかを調べ、そのなかで免疫システムの果たす役割を明らかにする必要があるでしょう。」

脳を健康に保つためには、体も健康に保つ必要があるみたいですね。日頃の運動を大切にして、健康寿命を伸ばしていきましょう。

 

 

ちょこっと英単語:

subcutaneous fat 皮下脂肪 脂肪がたっぷりついていても、なぜかお腹は空く

sedentary 座りがちな 第三次産業が主流となっている今こそ、歩く時間が大切である