一つの認識描像

脳腫瘍の発症を予測!転移するがんに特有の化学物質とは?

現代的な生活により、生活習慣病の患者が過去に比べて増えています。その中で最も恐ろしいものといえば、やはりがんでしょう。がんは、遺伝子のコピーミスや欠損などで発生し、通常の細胞が持つ自滅機能を持たないため無制限に増殖していきます。健康な人の場合は、小さながん細胞のうちに免疫システムが対処してくれますが、年をとったり、体の状態が悪かったりすると、対処しきれずに増えてしまいます。腫瘍を早期に発見できれば体へのダメージは少なくて済むので、がんを検出する技術は日々進歩しています。今回は数あるがんの中でも、脳腫瘍を早期に発見できることを示す研究を紹介します。

脳腫瘍に特有の化学物質を特定!進行の抑制や治療も視野に

Weill Cornel MedicineとNew York-Presbyterian investigatorsの研究チームは、がんが転移する時に使用するタンパク質を特定したと発表しました。そのタンパク質はCEMIPと呼ばれるものです。Nature Cell Biologyに掲載された研究によると、CEMIPが血管を拡張し、免疫細胞に炎症性の物質の生産を促していた事がわかりました。この炎症性の物質が結果的に脳腫瘍の進行を進行させてしまいます。

実は、癌による死は多くの場合、重要な器官にがんが転移して起こります。脳腫瘍はその中でも最も命に関わるもので、比較的起こりやすいものなのです。アメリカ合衆国では15~20万人もの患者が毎年見積もられています。しかし、これらの腫瘍を予測する良い方法はこれまでになく、ましてや進行を遅らせたり治療したりということはできませんでした。

今回の研究によって、この脳への「転移」に焦点を当てて予測することができます。研究によると、CEMIPは脳転移性の乳がんおよび肺がんに多く生産され、エキソソームの中に特に多く含まれている事がわかりました。エキソソームとは、細胞から出る小さなカプセルのようなもので、他の細胞に物質を届ける時に使われるものです。また、脳移転とは対称的に、骨やその他の器官への転移の際は、CEMIPは比較的少ない傾向にあります。

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エキソサイトーシスのイメージ図。袋のようなものに物質を詰め込んで外に出している。(from: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092867419302120

CEMIPを含んだエキソソームの大半は脳の血管を形成する内皮細胞や、脳に常駐している免疫細胞であるミクログリア細胞に取り込まれます。その後、それらの細胞に変化が起こり、炎症性の物質の生産が多くなります。
「がん細胞からCEMIP遺伝子を削除しても、エキソソームを介してCEMIPを提供することで、脳組織の分子環境が回復し、がん細胞がその組織に定着しました。」

と博士課程のGonçalo Rodrigues氏は言います。CEMIPの存在ががん組織の形成に重要な役割を果たしていることが分かります。逆にCEMIPがなければ、がん細胞が脳組織に正常に定着しないことも分かっています。つまり、CEMIPを取り除くことに成功すれば、がんの進行を遅らせたり治療することもできる可能性があるのです。更に技術が進んで、危険ながんもすぐに治せる日が来るかもしれません。

 

 

ちょこっと英単語:

metastasis (がんの)転移 がんが自ら増えていく様子は、まるでひとつの独立した生物のようにも見える

blood vessel 血管 vesselは広く「容器」の意味