一つの認識描像

ジャンプする遺伝子がDNAの三次元構造の安定性を担う

英語で解説した動画も作ってみました!

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DNAの欠片で、ゲノム中の別の場所に移動する事ができる「ジャンプ遺伝子(jumping genes)は、長い進化の過程で遺伝的多様性を生み出したとして有名なものです。今回、ワシントン大学の研究者らは、これらの遺伝子が核内でのDNAの三次元構造を安定化させているという驚くべき役割があることを示しました。

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jumping DNA。遺伝子の小さい領域が、他の場所にジャンプする。(from: https://www.wsj.com/articles/genes-often-get-shuffled-in-our-dna-deck-1381534048



ヒトの細胞内のDNA分子は、1.8m以上もあります。これだけ長いものを細胞の核内に押し込めるためには、正確に折りたたまれる必要があります。そして、この折りたたみ構造を安定化させるのに跳び回るDNAが役割を持っているというのは、いささか反直感的な気もします。確かに、正確なDNA配列によって分子構造が決定されるという従来の想定には反しています。
「マウスとヒトでDNAの三次元折りたたみ構造が同じ場所があるなら、その形にDNAを固定している塩基配列もそこに保存されていると考えるのが普通でしょう。しかし、我々が見つけたのはそんなことではなかったのです。少なくとも、かつて「ガラクタ遺伝子(junk DNA)」と呼ばれていた場所では、予想に反することが起きていました。」
とTing Wang氏は言います。
マウスとヒトの赤血球のDNAを調べると、進化の過程でDNAの折りたたみパターンが保存されている場所のDNA配列は同じではなく、ほんの少しだけ異なっていることが分かりました。しかし、この変化というのは全く問題ではありません。構造全体で見れば安定しているし機能もしているので、重要な変化では無いわけです。
「我々は、若いジャンプ遺伝子が昔からの構造を変えないように移動しているということに驚きました。特定の配列は異なるかもしれませんが、全体の構造は保存されます。そして、これは過去8000万年もの間行われてきたのです。」
とWang氏の研究室のMayank N.K. Choudharyは言います。
新しいジャンプ遺伝子がDNAの中に入ってきて、それでもなお同じ役割を果たすという事実は、DNA分子の機能に関わるゲノムの調整部分に冗長性をもたらします。
研究によると、この冗長性がゲノムをより弾力のあるものにするようです。新しい配列と構造の安定性をもたらすという点で、ジャンプ遺伝子は哺乳類の遺伝子のバランスを保ちながらも、環境の変化などに対応できる柔軟性を実現してくれると言えます。
また、研究者らはタンパク質を生産するのに必要な部分と残りの遺伝子を慎重に区別しました。タンパク質をコードしている部分は、DNA配列も構造も保存されていて、この研究とはなんの矛盾もないことが分かりました。Wang氏は次のように言います。
「我々の研究はタンパク質の生産に関係しないDNAの領域に対する解釈を変えることになるでしょう。例えば、多くの人から多くの種類のゲノムが確認されたにも関わらず、その機能には変化がなかったという事実があり、これは今まではよくわからないものでした。しかし、局所的な配列の変化はあっても機能は同じであることを示した我々の研究によって、筋の通った説明が可能となりました。」
これからの研究として、今回得た新たな知見で過去の研究を見直し、ジャンプ遺伝子に関する理解をより深めるとしています。

 

 

ちょこっと英単語:

portion 部分 DNAの一部分を当たり前のように研究してるけど、ナノスケールの研究がどこでも行われているすごい時代に生きているんだなあ・・・
redundancy 冗長性 この世界にはよいムダと悪いムダがある

 

 

 


生体高分子の基礎 はじめてのバイオ分子化学 (専門基礎ライブラリー) [ 長谷川慎 ]