一つの認識描像

二次元構造の物質に見られたモット絶縁性!層同士の影響は?

モット絶縁体や量子スピン液体といった新しい物理的な挙動は、物質中の電子同士が交互作用することによって起こります。電子が2次元平面のような低次元内で振る舞うとき、これらの効果はさらに強くなるとされています。

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1T-TaSe2の二次元構造。ユニークな模様が見られる。(Credit: Chen et al)



これらの知見から、UCバークレースタンフォード大学ローレンスバークレー国立研究所や世界中の大学研究機関の研究者らは、二次元の1T-TaSe2が示すユニークな挙動を研究してきました。論文では、この素材中の電子の相互関係がモット絶縁状態を強めたことが示唆されています。また、このとき見慣れない軌道状の形が見られました。研究に携わったMichael F. Crommie氏は言います。
「バルク素材の1T-TaSe2と1T-TaS2は電子間相互作用による新たな挙動を示すと長年信じられてきました。しかし、このクラスの素材を研究する上での難点は、これらの素材が二次元構造をした層の積み重ねでできていて、層と層の間の様子がよくわからないというものです。」
この難点を克服し新たな挙動を発見するために、Crommie氏と共同研究者らは1T-TaSe2を単一の層にして、他の層の影響がもはや及ばないようにしようと決定しました。
「この作戦を実行するために、数枚の一層の1T-TaSe2や数層のものを用意し、走査型トンネル顕微鏡と角度分解光電子放出を用いて内部の電子の様子を特徴づけました。これによって一層の1T-TaSe2がモット絶縁体と呼ばれる新しいタイプの絶縁体であると決定でき、この性質は層が重なると消えることも分かりました。」
とCrommie氏は説明します。
物理学者のZhi-Xun Shen氏とSung-Kwan Mo氏率いる別のチームでは、分子線エピタキシー法と呼ばれる手法を用いて一層の1T-TaSe2や数層の素材を用意しました。分子線エピタキシ法は,各原料を加熱し,その分子線を基板に到達させて結晶成長(エピタキシャル成長)を行う方法です。
このような協力的な研究努力で作成された絶縁体により、一連の興味深い結果を得ることができたのです。はじめに、Crommie氏の研究によって一層の1T-TaSe2が新しい二次元のモット絶縁体システムを形作ることが分かりました。次に、このシステムが示す特有の挙動についての有益な視点を得ることができました。Crommie氏は言います。
「我々の研究は一層の1T-TaSe2が新たな二次元のモット絶縁体であることを確立しました。素材の中の電子が今まで見たことのないようなパターンや形を見せてくれました。我々はまた、1T-TaSe2の層間の相互作用が電子間の相互作用効果を弱め、絶縁性を低くしているということもはっきり示す事ができたのです。」
1T-TaSe2に対する理解が深まっただけでなく、この研究は物体の新たな状態を発見する方法を見出しうるとも言えます。現在、研究者らは他の性質を解き明かすための研究を計画中とのことであり、これからのさらなる発見に期待がかかります。

 

 

ちょこっと英単語:

quench 消す せっかくの性質が自然の成り行きで消えてしまう
interrogate 尋問する しないでください。