一つの認識描像

化学反応の「間」を見る!遷移状態の観測方法とは?

化学反応は十分なエネルギーと反応物があれば進行し、結果として生成物を生じ、場合によってエネルギーを放出したり吸収したりします。化学反応は実験室の中だけではなく、空気中や体の中で起きたりもしています。昔からの研究で、どの物質が反応してどの物質が生成するのかというのは、よく理解が進んでいますが、その間の状態はまだ直接観測されていません。つまり、変化している様子を正確に観測することができていないのです。今回紹介するのは、このあいだの状態を観測する方法についての研究です。正確には直接観測ではないのですが、これまでの技術の中では最も直接的な観測方法です。一体どのようなものなのでしょうか?

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反応の遷移状態。エネルギーの山を超えて反応は完了する。(from: http://pc-chem-basics.blog.jp/archives/1417079.html

化学反応における「遷移状態」。ミリ波分光法を用いた観測で判明したこととは?

化学反応が起こっている間、反応に関与する分子は「遷移状態」と呼ばれる状態に達するまでエネルギーを得ます。今までは、この状態を観測することはできませんでした。なぜなら、この現象は数フェムト秒しか持続しないからです。しかし、MIT、Argonne National Laboratoryやその他の機関の化学者らによって遷移状態の構造をを反応生成物の詳細な観測によって決定する技術が開発されました。MITのRobert Field氏は次のように言います。
「我々は遷移状態の実際の構造の情報を含んだ、反応の結果を見ています。これは間接的な観測ですが、これまでに可能となる観測の中で最も直接的なものです。」
Field氏と共同研究者らは、反応生成分子の回転振動エネルギーを観測できるミリ波分光法を用いて紫外線によって分解されたシアン化ビニルの分解生成物の行動を決定しました。この方法を用いて、研究者らはこの反応に二種類の遷移状態があることが分かりました。
いかなる化学反応にせよ、反応に関わる分子は遷移状態に移行させるのに十分なエネルギーを受け取る必要があります。Field氏は言います。
「遷移状態は化学における中心的な概念です。化学反応で我々が考えているすべてのことが、直接観測することのできない遷移状態に非常に依存しています。」
2015年に発表された論文では、Field氏と共同研究者らはレーザー分光法を用いて、異性化反応の遷移状態を特徴づけました。今回の新しい研究では、紫外線を用いてシアン化ビニルをアセチレンと他の物質に分解するという、異なる種類の反応を詳しく調べました。それから、反応の数百万分の一秒後の反応生成物の振動レベル分布をミリ波分光法を用いて観測しました。この技術を用いて、研究者らは異なるレベルの振動エネルギーを持った新しい分子の集合を決定することができました。これらの振動エネルギーレベルはまた、遷移状態で生まれた分子の形、特に、水素、炭素、窒素原子間の結合角がどのくらい曲がっているのかに関する情報も含んでいます。これによって、シアン化水素(HCN)とイソシアン化水素(HNC)のような、少しだけ異なる反応生成物を見分けることも可能になりました。
「これは分子が生成された瞬間にどのような構造をとっていたのかを示す、いわば指紋のようなものです。反応を見る従来の方法では振動エネルギーは分からなかったし、HCNとHNCの見分けもつきませんでした。」
研究者らは反応生成物の中で、異なる遷移状態を介して生成されたHCNとHNCの両方を発見しました。このことは、異なる反応機構を示す2つの遷移状態が、どちらもシアン化ビニルの紫外線分解において役割を持っていることを示唆しています。Field氏は言います。
「これは遷移状態に関する2つの異なる反応機構が存在していることを暗に示しています。これは完全に新しい技術で、化学反応において何が起こっているのかの核心に迫るものです。」

多くの現象の中で、状態が変化する中間の状態(例えば、相転移など)の現象は難解で非常に興味深いものが多いです。ぜひ学んでみてはいかがでしょうか?

 

 

ちょこっと英単語:

indirect 間接的 文字のままの意味

fleeting つかの間の 喜びは儚いものである