一つの認識描像

物理学の対象となる概念の定義に関する考察

 物理学の対象,ひいては自然科学の対象とは,観測に基づいてのみ議論されうるものです.よって,観測されない部分というのは物理学では扱うことのできる問題ではありません.ただ,ある理論によって良い予測を与える場合,その理論に従った解釈を一つの描像として採用し,それに従った説明ないし理解を持つということは一つの営みとしてあるかもしれません.
 以下,観測に基づいてのみ概念を定義することを考えます.まず,「性質」を定義します.これは,実験観測の方法と,その観測値に関する言及で与えられます.これは,どういう条件で実験するのか,誤差まで含めて観測値に関して何が言えるのか(何%の確率である値のどの近傍に結果を見出すのか・無限回実験するわけには行かないので何σまでで見るのかなど)の組です.この組をたくさん用意したならば,それは観測に基づいた性質の組となっていると考えます.完全に厳密に議論するなら対応する特徴的なクオリアや認識などを基礎に据える必要がありますが,これは非常に難しいと思います.
 性質の集まり$\left\{p_{n}\right\}_{n}$があるならば,物理的対象$s$は「$\left\{p_{n}\right\}_{n}$を観測したとき,描像として設定されるこれらの性質を満たす同一の何か」として考えられることになります.「$s$が存在する」という言明は素朴な実在感覚的認識としてではなく,性質(これは観測に基づく概念)の集まりとして考えられるべきです.ただ,自然言語の意味としての性質とはある対象に付与されているものなので,この言葉を使う時に必要条件的に見出され,認識上構成される同一的実体の認識が$s$であるということもできます.こっちのほうが,感覚的に扱いやすくなりますね.