一つの認識描像

理論的には可能?エネルギーのロスがないバッテリーとは?

パソコン、タブレットスマートフォンなど、私達の身の回りには電化製品が溢れています。これらに欠かせないものとして、バッテリーが挙げられます。最近ノーベル賞で話題のリチウムイオン電池によって、小型で高出力の充電式電池が実現され、日々の暮らしがより便利になりました。しかし、そんなリチウムイオン電池を含め、従来の電池には何もしなくてもエネルギーが漏れてしまうという欠点があります。今回は従来の電池の仕組みや量子力学の知識に触れながら、理論的に示された新しい電池のカタチを見ていきましょう。

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NASAの大型リチウムイオンポリマー電池。これからも大いに人類の発展に貢献するだろう。

1.リチウムイオン電池の仕組み

電解質の中に二種類の金属を入れると酸化還元反応が起こって電子が移動する、これが電池の仕組みであることは高校化学で学ぶことができます。このとき、電解質の中をイオンが動くことによって電子の受け渡しが可能となります。そして、使用される2種類の金属がそれぞれ正極・負極となります。これらは金属である必要はなく、電気を通すもの、例えば炭素棒でも電池を作ることができます。充電できない電池は反応後に残る化合物に電気を流してももとに戻らないため一度きりしか使えません。それに対して、リチウムイオン電池含む充電式の電池は、反応後に逆向きに電流を流すと、中の物質が反応前の状態に戻っていくので繰り返し使うことができます。リチウムイオン電池電池では、負極に炭素、正極にコバルト酸リチウム電解質にリチウム塩を有機溶媒に溶かしたものを使用しています。電子を受け渡すイオンとしてリチウムイオンを用いているので「リチウムイオン電池」と呼ばれているのです。

2.電荷を漏らさない!新しい「ロスゼロ」の電池とは

しかし、充電式であってもなくても、電池はエネルギーを無駄にロスしてしまいます。従来の電池は古典電磁気学の理論に基づいていて作られています。しかし、ロスの原因は量子力学の理論で説明されます。電流が流れるとき、電子はエネルギーを受け取ります。この、エネルギーを受け取った状態を励起状態といいます。このときに電子が持っている励起エネルギーが外に漏れてしまう、「自然放出」といった現象が勝手に起こってしまい、ロスの原因となります。このロスを無くすべく、アルバータ大学とトロント大学の科学者らは電気を漏らさない量子バッテリーの設計図を作成しました。アルバータ大学の化学者Gabriel Hanna氏は、量子的に説明される特別な状態、「暗い状態(dark state)」に着目し、構造的に非常に対称性のあるプラットフォームを用いたオープン量子ネットワークモデルを考えました。彼は次のように語ります。

「鍵となるのは、この量子ネットワークをいわゆる『暗い状態(dark state)』に用意しておくことです。この状態では、量子ネットワークはエネルギーを外部環境と交換できません。要するに、このシステムはあらゆる環境から影響を受けなくなります。つまり、量子バッテリーはエネルギーロスに非常に強くなります。」

励起状態になると自然放出が起こってしまいます。しかし、電子が「暗い状態」になると、励起状態であるかどうかの区別がつかなくなります。つまり励起していても状態は変わらず、結果として励起エネルギーのロスが起こらなくなります。研究チームは、実際に充電・放電の方法を開発するとともに、実用レベルにまでスケールを大きくすることを目指すとのこと。これが実用化されれば、さらにエネルギー効率の良い社会が実現できるかもしれません。

 

 

ちょこっと英単語:

excitonic energy 励起エネルギー 量子化学に進む人はよく見ることになる

viable 実行可能な 今回の研究は理論的だが、いずれ実行可能になることを期待する