一つの認識描像

水に浮く金属?虫から着想を得た微細構造とは?

私達が普段目にする鉄などの金属は水に沈んでしまいます。これは、水の密度よりも金属の密度のほうが大きいからです(もちろん、すべての金属に当てはまるわけではありませんが)。もし水に浮く金属が実現できたら、一度沈んでもひとりでに浮き上がってくる船や、池に落としてもプカプカと浮上してくるスマホなんかが作れるかもしれません。ここで今回は、金属を水に浮かせる技術を紹介します。

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水に浮く金属(右)。左の普通の金属は沈んでいる。

金属の微細構造により実現!ミズグモやヒアリを参考にした浮く方法とは?

ロチェスター大学の研究者らは、どんなに水の中に沈めようとしても、傷ついたり穴が空いたりしても沈まない金属を開発しました。この性質を実現するために、フェムト秒という短い時間レーザーを照射してエッチングする画期的な技術が用いられました。これによって金属の表面に微細な構造を作り、その中に空気を含ませることによって、超疎水性の表面を作り出します。こうして沈まない金属が出来るのです。しかし、このままでは、非常に長い間水中に沈めたままにしておくと疎水性を失ってしまうという難点がありました。ここでミズグモとヒアリの出番です。この虫たちは、うまく閉じられた空間を作り、そこに空気を閉じ込めることによって水に浮く事ができます。ミズグモの一種であるアルギロネータは、「ダイビングベル」と呼ばれるドーム状の網を水中に作ります。これらは超疎水性の脚部と腹部の間に保持されて水面から運ばれた空気で満たされています。同様にして、ヒアリも超疎水性の体の間に空気を溜め込んで水上に浮きます。光学・物理学の教授であるChunlei Guo氏は次のように言います。

「これはとても興味深いインスピレーションでした。鍵となる発見は、超疎水性の多面体が大きな体積の空気をトラップする事がわかったことです。これによって、浮力装置を作ることができます。」

Guoの研究室にて、レーザー加工されたアルミニウムの板を二枚、加工面を内側向きにした構造を作成しました。内側にすることによって、外界による摩耗を防ぐことができます。加工面間の距離は、この素材が浮くのにちょうどピッタリの量の空気を保持するのに必要なだけ空いています。これによって、二ヶ月に渡って水没させていても、即座に水面に戻る構造を作ることに成功しました。それだけでなく、穴が開けられた場合でも浮力を保持できていたといいます。これは、金属板の接続面の構造部分に十分な量の空気がトラップされていた事によるもので、実用化に有利な性質と言えるでしょう。

自然界から着想を得て、人間の生活の役に立てる技術は以前からありますが、まだまだ自然から学ぶことがあるみたいです。

 

 

ちょこっと英単語:

superhydrophobic 超疎水性 蓮の葉の疎水性を模倣した例は有名

buoyant 浮力 アルキメデスの原理によって説明させる