一つの認識描像

負の長さと正の面積

長方形の長さは縦×横。面積は正の値。きっと多くの人が負の長さの2辺を持つ長方形は正の面積を持つことに気づき、何を意味するのだろうと考えたことがあると思います。今回は、このことについて少しだけ考えていきたいと思います。

長さが負、というのは存在しません。敢えて考えるなら伸び縮するもの、例えば透明なゴム紐を想像してください。見えないゴム紐をつかもうとすると、指先がこの世界から消えていきます。そしてゴム紐を掴み引き伸ばすと、指先が再度現れ、ついにゴム紐がその正体を表します。これでもかなり無理なイメージですが。しかし、この存在しないものを2つ掛け合わせることによって、正の面積という存在するものが出てきます。不思議です。どうなっているのでしょう。この世界にある面積は、正の長さと負の長さの両面を持っているのでしょうか。

少し考えてみましょう。面とはなんでしょうか。面は、小さな細長い短冊の集合体だと考えることができます。例えば、長さ5cmの極細のひもをズラーッと並べて横幅を5cmまで伸ばせば、25平方センチメートルの面ができます。この紐の長さが正なのが、普通の面です。では負のときはどうなるのでしょうか?

紐の長さが負なら、この世界から紐を見ることはできません。なので、一度負の世界に行ってみましょう。・・・はい。ここは負の世界です。負の長さの紐や、さっき掴んだゴム紐がはっきり見えますね。では、面を作っていきましょう。紐をズラーッと並べていきます。そして、面が完成しました。面積は正です。ここで、2つほど気になることがあります。一つは、この面は我々がもといた世界から見えるのか?もう一つは、負の面積を持つ面を作るとどうなるのかです。

前者についてはよくわかりませんね。よくわかりませんが、恐らく見えないと思います。例えば、円盤を考えてください。円盤の半径を負とすると、面積は正となります。しかし、円周は負です。つまり、縁が見えなくなります。すると、外側が取れた円ができますが、この円についても円周は負なので、玉ねぎ式に見えなくなっていきます。なので恐らく見えないでしょう。

後者はといいますと、これは面の体裁を成さなくなります。要するに、見えない紐を見える方向に並べるということなので、正の世界からも、負の世界からも、なにも見えないことになります。面積が正であるというのは、正と負のどちらの世界に生きていても、面が存在するために必要な性質だそうです。

では、面積が正で長さも正な我々は、確実に正の世界に生きていると言えるでしょうか。いいえ、それは違います。符号というのは相対的なものです。もし、我々が負の世界に生きていても、その長さを正と定義すればよいだけですから。そしてそれができるのは、どちらの世界でも面積が正であるからではないでしょうか。面積は常に正であります。これは、太陽の動きを見て方向を決めることができるようなもので、ある種の道標と言えるでしょう。どちらの世界に生きていても、面積の値を基準にして、同じ数学が議論できる。そんなふうに考えることもできるかもしれませんし、的はずれな考えかもしれません。

これは一種の哲学のようなものです。恐らく、数学には関係しないでしょう。しかし、こういうことを考えてみるのもたまにはいいかもしれません。