一つの認識描像

占いの認識上の機能

この世界には占いというものがあります.本当に心から信じている人はごく僅かかもしれませんが,心の何処かで気にする程度の人ならそこそこいるのではないかと思います.占いは,未来を予測する術であると認識されます.しかし,それは科学的方法ではなく,その意味であまり信頼はできません.それでもなお,占いというのは認識の側面において実効的な機能を持つと私は考えます.

例えば,「今月は金運のめぐりがよろしくないので,衝動買いには気をつけよう」と占いに書かれていたとします.これは,「もし買うか買うまいか迷ったら,買わない方を選ぶ」という行動選択の指標になりえます.逆に「今日はついているので,心に来たものがあれば買ってしまおう!」と書いていると,買う方を選ぶようになるかもしれません.これは,「迷っている」という対称性の高い状態に対する摂動のようなもので,迷っている状態からの脱却を助けると認識できます.我々は生きていて悩まないことは無いですが,悩んだり迷ったりするのは「複数の可能性を認識する」にも関わらず「実現できるのは一つ」であるからです.これはこの現実の特性の一つです.冷静に考えて一つを選べるのであればそれほど悩まなくても済むのですが,どれを選んでも複数の側面のトレードオフで甲乙付けがたい場合には「理性に依る判断」は非常に困難になります.しかし,結局何かを選ばなければならず,何を選んでもそれはそれで先を見て人生を歩んでいくでしょう.なので,理性に依る判断が困難な時に「迷っている状態を破る」因子として何かが存在すれば良いのですが,実は占いがこの機能を持っていると言えるのです.

よって,この意味では占いというのは「未来を予測するもの」ではなく,「行動決定の一助となりうるもの」であると考えられます.理性に頼れない時の神頼みです.この機能を持つ他の認識作用として夢や直感などが挙げられますが,どれも理性的でない点では類似しているといえます.案外人生を形作るのは,このような非論理的プロセスなのかもしれません.