一つの認識描像

数学的に量子論をやりたくなった時に読む本たち(おすすめ入門書)

私は現在物理学科4年で,来年からは数学の院へ進みます.そんな私が「もっと早い段階でこの本に出会ってればよかった!」と思う本を紹介しておきます(読みかけのもの含む).なかなか物理学科にいるとこのような情報は得にくいですよね.(別に先生に聞けばよかっただけなんだよなぁ) 

一応数学知識は物理学科にいれば身につくくらいの状況を仮定しておきます.量子論は分野としては解析なので,基本的な解析の知識(極限の取り扱い),Lebesgue積分がまず必要です.やっぱりLebesgue積分が無いと始まらない.これらの本は色々とあるのですが,私は小平先生の「解析入門」と伊藤先生の「Lebesgue積分入門」を使いました.基本的には,「Lebesgue積分入門」を読んで,自分の足りない知識を見つけたら「解析入門」を参照したりネットで調べたりするといった感じにしました.

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これらの理論がある程度わかったら,あとは使っていくうちにLebesgue積分の威力を思い知ることになります.っぱLebesgueの優収束定理よ,そしてFubiniの定理よ.個人的にはRiemann積分より積分の定義が明晰であるような気がします(ただの感想です).「ルベーグ積分入門」は加法的集合関数のところまで読んだらあとは関数解析の本で書かれているようなことなのですが,自分は一応通読しました.
この次は関数解析の時間です.自分は,黒田先生の「関数解析」を読みました.この本は「関数解析といったらこれ」くらい日本語で書かれている本の中では有名らしく,基礎的ですなわち重要な概念に多く出会うことになります.

この本を読むのには苦労した覚えがあります.数学は公理があって,言葉の定義があって,その上に構築されています.そのため,言葉の定義を何度も確認しながら考えることが重要です(当たり前ですが).ある概念を何度も参照したり,それがどんな性質・振る舞いを持つのか,他の概念とどのように関係しているのかを多く認識していると,その概念に対して同時に認識される観念が明晰になったり増えていったりして,構造全体として認識できるようになっていく気がします.また,定理の証明や一連の論理の流れというのは歌に似ているように感じます.歌は最初から歌っていくと,メロディに沿って歌詞が出てきます.命題の証明も,論理の流れに乗ることができればできることが多いですが,論理の流れが頭の中で通ってないと何のために何を主張しなければならないのかがあやふやになって,手が止まってしまいます.この点を意識すると,理解を助けるかもしれません.

さて,ここまで来ると基礎的な「語彙」を得たような状態になりますが,次に大きな跳躍を経験することになります.そう,自己共役作用素のスペクトル表示です.これを使えるようになると,世界は著しい広がりを見せることになります.私は,新井先生の「ヒルベルト空間と量子力学」を読みました.

二章までは「関数解析」と被る部分が多いので,割りとスムーズに読めると思いますし,バナッハ空間ではなくヒルベルト空間で話が進むのでより分かりやすいです.一章の完備化の話は,非常に一般的な手法で今後も暗に使うことになると思いますので,ここはしっかり読みましょう.この本はヒルベルト空間と書いていますが,ヒルベルト空間上の作用素解析の入門書になっていると思います.自己共役作用素とエルミート作用素の違いなども明晰に認識できます.また,実は微分作用素は一般的なもの(閉包をとったもの)を考えないと運動量作用素が自己共役にならなかったりなど,物理では経験できない驚きがあると思います.6章移行では量子力学の公理を建て,今までの知識を用いて量子力学が構築されていきます.本の名前にもある通り,この本は量子力学の本です.場の量子論を勉強するための基礎的な部分は,同じく新井先生の「フォック空間と量子場(上)」を読みました.

場の量子論では粒子の生成消滅が起こるため,1, 2, …粒子状態すべてを格納できるヒルベルト空間が必要になります.これはFock空間と呼ばれます.その上で働く作用素はどうすればいいのか,1粒子で使っていた自己共役作用素を自己共役性を保ったまま使えるのか,そのスペクトル測度はどうなるのか,生成消滅演算子は数学でどのような作用素なのか・・・粒子数が変化するときに生じる疑問は尽きませんが,これらに応える数学的な枠組みが一般的な形で与えられることを見ることが出来ます.CCRの表現などもとても面白いです.上巻は6章はSUSYなので,飛ばして下巻を読んでも大丈夫です.下巻はまだ私は読みかけですが,散乱理論を厳密に扱うための議論や,各場の理論が具体的にどのように構成されるのかを見ることが出来ます.

本の紹介は以上になります.是非参考にしてみてください.